
宝石と見まがう繊細なカッティングと、吸い込まれそうな透明感―、クリスタルガラスは人間の手が作り出した最も美しいもののひとつといえるでしょう。
今回は、フランスが世界に誇る至高の輝き「バカラ(Baccarat)」について、その基本と代表作、そして日本との浅からぬ関係を交えて、ご紹介していきます。
目次
今さら聞けないバカラの基本
どんなブランド?
「バカラ(Baccarat)」はフランスのクリスタルガラス製造ブランドです。創立からまもなく260年になる2023年現在も、世界屈指のラグジュアリーメゾンとして君臨しています。
タンブラーやワイングラスなどのテーブルウェアだけでなく、花瓶、オーナメント、シャンデリア、ビジュウ(ジュエリー、アクセサリー)など、様々な製品が展開されています。
ワインやウイスキーの色が美しく映えるバカラのグラスは、お酒好きな方にとっても憧れの存在ではないでしょうか。
バカラ創設は1764年までさかのぼります。
他国に遅れをとっていたガラス製造を発展させるため、フランス王ルイ15世の認可を受けて、フランス東部ロレーヌ地方のバカラ村でガラス製品の製造が始まりました。
工場買収、倒産、改名など多くの危機に陥りますが、その優れた作品は1855年、1867年、1878年のパリ万博において3度のグランプリを受賞します。
それ以降も他国にも引けを取らない独自の作品世界を展開し、フランス王室御用達ブランドとなってその名声を確実なものにしていきます。
専門の職人たちによる徹底した品質管理と独創性によって生み出される製品は、ナポレオンを虜にし、ルイ・フィリップ王の正餐を彩り、ローマ教皇の別荘でも使用されてきました。
現在も、世界中にファンを持ち、セレブリティや王族皇族に愛用されています。
代表的な作品は?
「アルクール」タンブラー
バカラといえばアルクールのタンブラーを思い浮かべる方も多いでしょう。1841年に誕生し、パリ万博で2度のグランプリを受賞しました。アルクールシリーズはタンブラーにとどまらず、花瓶、キャンドルスタンド、ビジュウコレクションなどが展開されており、大変人気があります。バカラの不動の定番として、日本でも多くのファンに愛用されています。
「マッセナ」ワイングラス
1980年に作られ、今も愛されるベストセラー・デザイン。豊かな丸みを帯びたボウルに、流れるようなカットが施されています。ステムからフットに向かって広がるプリーツが、グラマラスな輝きを演出します。モダンで華やかなきらめきがワインをよりゴージャスなものにしてくれそうです。マッセナとは、ナポレオン1世に「勝利の女神の申し子」と称えられたフランス陸軍元帥の名からとった名称です。
「ローハン」シャンパンフルート
1855年のパリ万博で名誉大賞を受賞したデザイン。エッチングによって規則正しく施されたS字型模様が特徴的です。繊細な模様はシャンパンを注ぐことでより幻想的に浮かび上がり、洗練された輝きを放ちます。ローハンシリーズには他にもデカンタやタンブラーなどがあり、バカラの定番のひとつとして、今も愛されています。
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グラス以外のバカラ ― インテリアとして楽しむ
バカラの魅力は、テーブルウェアにとどまりません。花瓶、キャンドルスタンド、時計など、インテリアとして空間を彩る作品も豊富に揃っています。
花瓶・箱入り

バカラの花瓶は、クリスタルの透明感を最大限に活かしたデザインが多く、花を生けなくても飾るだけで部屋の雰囲気を高めてくれます。縦に伸びる直線的なカットや、ラッパ型の優美なフォルムなど、デザインのバリエーションも豊かです。ギフトボックス入りでお届けするため、大切な方への贈り物としても最適です。結婚祝いや引越し祝い、記念日のプレゼントなど、特別なシーンにふさわしい一品として長く愛されています。インテリアとしてはもちろん、季節の花を一輪挿すだけで、テーブルやリビングに上質な彩りを添えてくれます。
キャンドルスタンド・キャンドルホルダー

バカラのキャンドルスタンド・キャンドルホルダーは、ろうそくの炎がクリスタルに反射することで、幻想的な光の演出が楽しめます。アルクールシリーズのキャンドルスタンドは、同シリーズのグラスと並べてテーブルを統一感よくコーディネートできることから、贈答品としても長く人気があります。ディナーパーティーや記念日のテーブルセッティングに取り入れることで、空間全体に華やかさと高級感をプラス。日常使いはもちろん、特別な夜のシーンを格上げしてくれるアイテムとして、世界中で愛され続けています。
クリスタル時計
クリスタル時計は、六角形や四角形など、彫刻のような存在感ある形が多く、デスクや棚の上に置くだけで格別のたたずまいを生み出します。機能と美しさを兼ね備えた、バカラならではのインテリアアイテムです。テーブルを彩る小物たち ― 食器・蓋付き容器
バカラの蓋付き容器 ― ヨーロッパ食卓文化の継承

グラスや花瓶と並んで、バカラには蓋付きの容器も充実しています。砂糖入れ(シュガーポット)、ジャム入れ、キャンディーボックスなどは、往年のヨーロッパの食卓文化を今に伝える品々です。精緻なカットと輝き ― 蓋付き容器のデザイン
バカラの蓋付き容器は、ふたとボウル部分にそれぞれ精緻なカットが施されており、光を受けると複雑な輝きを放ちます。銀製のスプーンとセットになっているものもあり、食卓に置くだけで特別感が生まれます。ボウルと灰皿 ― 時代を映すコレクターズアイテム

カット模様のボウルは、菓子皿やフルーツ皿として使われてきたほか、灰皿として製造されたものも存在します。喫煙習慣が一般的だった時代のバカラの灰皿は、今では生活骨董的な価値を持つコレクターズアイテムになっています。眠っているバカラを見つけたら ― 査定のすすめ
こうした食器・小物類は「グラス」ほど認知度が高くないため、蔵や実家の整理で眠ったままになっていることも少なくありません。バカラのロゴやラベルがついていれば、ぜひ一度査定に出してみることをおすすめします。
クリスタルガラスとは?
そもそも、クリスタルガラスとはどういったものでしょう?
現在一般的に普及しているガラス製品の多くは「ソーダガラス」というもので、二酸化ケイ素、石灰、ソーダ灰からできています。一定以上の透明度があり、硬くて軽いことが特徴です。日常的に目にする窓ガラス、食器、瓶などにはソーダガラスが使われています。
一方、クリスタルガラスは珪砂、カリウム、ソーダ灰などの主成分に、金属化合物(酸化鉛)を添加して作られる「鉛ガラス」の一種です。鉛が含有されることで光の屈折率と透明度が高まり「クリスタル(水晶)のように輝く透明なガラス」ができあがります。
ガラスに反射する光も非常に美しく、ソーダガラスに反射した光の輪郭がぼんやりとしているのに対して、クリスタルガラスに反射した光は輪郭がくっきりしています。カッティングによってはプリズムもはっきり見ることができます。
さらにクリスタルガラスは、指で弾くと金属を打ち鳴らしたように「キーン…」と深く澄んだ音で響くことも特徴です。
| クリスタルガラス | ソーダガラス | |
|---|---|---|
| 添加物 | 金属化合物を含む | 金属化合物を含まない |
| 音 | キーン…と長く鳴り、深く響く | チンと短く鳴り、響かない |
| 色・透明さ | 無色透明 | うっすら青、緑、灰色ぽい |
| 輝き | くっきりした輝き プリズムあり | ぼんやりした輝き プリズムなし |
最高級の製品、最上級の職人たち
バカラのクリスタルガラス製品は、「最良の素材、最高の技術、そしてそれを継承する」という理念のもと、優れた職人たちの手によってマニュファクチュール(自社一貫製造)で生み出されています。
クリスタルガラスを作り上げる工程は、肉体的にも精神的にもハードなものです。高温の窯とクリスタルを扱い、ミリ単位の繊細な彫刻や装飾を施す…それらの作業のほとんどが、職人の手作業によって行われます。
バカラ製品を生み出す職人たちは、さまざまな部門のスペシャリストであり、ひとつの作品を作り上げるために協力し合う素晴らしいチームでもあるのです。
バカラでは、職人たちのクリエイティビティを存分に発揮するために、素材、制作工程、技術の絶え間ない改良に取り組んでいるとのことです。
その結果として、バカラの工房はM.O.F(フランス国家最優秀職人)を50名以上輩出しています。これは日本の人間国宝にあたる称号です。フランス国内でも、これほど多くの優秀な職人を生み出したラグジュアリーブランドは、他に類を見ません。
最高級の製品を生み出し続けよう、それを末永く継承していこうという、バカラの不断の努力が垣間見えます。
バカラに魅了された著名人たち
バカラは名だたる著名人や王家に愛好されていることから、「王者たちのクリスタル」とも呼ばれています。
バカラに魅せられた著名人には、女優のマリリン・モンロー、シャネルやフェンディのデザイナーであるカール・ラガーフェルド、スペインの画家サルバドール・ダリなどがいます。
セレブリティだけでなく、現代の王室の方々もバカラを愛好しています。本国フランスはもちろんのこと、ヨーロッパ各国、タイ王室、そして日本皇室でも!
1921年には、当時の皇太子であった昭和天皇がフランス旅行の際、パリのバカラショップを訪れ、のちに「パリの思い出はルーブル美術館とバカラです」と語りました。
その後も、1999年の天皇陛下御在位10年の記念に、2003年の天皇陛下70歳のお祝いにと、バカラ作品がフランスから日本皇室に贈られています。
120年前に始まった日本とバカラの関係
バカラと日本の関係は1901年(明治34年)に始まりました。
大阪の時計商・安田源三郎が、ヨーロッパに買い付けに出かけた際にバカラの花瓶を入手し、日本に持ち帰りました。これを、親戚の茶人で古美術の目利きであった春海藤次郎に、土産として渡します。藤次郎はバカラの美しさに大変な衝撃を受け、バカラ製品の輸入を始めました。さらには日本の和室や茶事にふさわしい大きさやデザインを自ら考案し、バカラに特注するようになります。
こうして生まれた品々はのちに茶人の間で「春海好み」と呼ばれ、現在にいたるまで長く愛されるようになりました。
ピカチュウにまねき猫!?クリスタルで再現される日本のカルチャー
バカラと日本のカルチャーのユニークなコラボレーションは、クリスタルガラスのオーナメント(置き物)として再現され、多くのファンを驚かせています。
ポケットモンスター
1996年にゲームボーイ用ソフトが発売されて以来、コミック、アニメ、アプリゲームと多様なメディアミックスを展開し、いまや不動の人気を誇る「ポケットモンスター」。
ポケットモンスター誕生25周年を祝って登場したポケモンコレクションには、モンスターボールとピカチュウ、2種類のオーナメントがあります。
今にもあの愛らしい声を聞かせてくれそうな躍動感あふれるピカチュウは、クリスタルガラスの輝きを存分に活かしたクリアな仕上がり。手のひらサイズのモンスターボールには、クリアな本体にゴールドで実物同様のラインが描かれています。
ポケモンファンにはたまらないコレクターズアイテムです。
ドラえもん
日本のコミックス作品の中ではもはや殿堂入りの風格漂う「ドラえもん」も、バカラのオーナメントとして登場しています。クリスタルガラスで再現されたチャーミングな姿は、我々日本人が見慣れたドラちゃんそのもの。国境と時代を超えて愛されるタイムレスな存在としてのバカラとドラえもん、ユニークなコラボレーションといえます。
くまモン
九州のご当地キャラクターとしておなじみの「くまモン」も、バカラとコラボしています。
高さ11センチとデスクに飾るのにぴったりなサイズ感。コロンとしたシルエットが実に愛くるしいです。
発売当時、九州の百貨店には、家族や孫へのプレゼントとしての予約が多く入ったとのこと。
オンライン販売はすでに終了していますが、今もコレクターに人気があり、状態の良い中古品を求めるひとが多くいます。
まねき猫
商売繁盛の縁起物として定番のまねき猫オーナメントも、バカラではおなじみとなっています。クリア、ゴールド、レッド、ミッドナイトと、カラーも豊富。金運まねきの右手上げ、人まねきの左手上げ、どちらもラインナップされています。
日本では贈答品として非常に人気があり、商売の場だけでなく開運グッズとして広く受け入れられています。
毎年届く輝き ― バカラの限定コレクション
バカラは毎年、クリスマスシーズンを中心に数量限定のオーナメントを発売しています。雪の結晶、クリスマスツリー、干支や動物モチーフなど、シリーズごとにザインが変わるため、毎年集めるコレクターが世界中に存在します。
雪の結晶
なかでも雪の結晶モチーフのオーナメントは、クリスタルの多面カットが光を受けてきらめく様子が美しく、定番的な人気を誇るアイテムのひとつです。ツリーに飾っても、棚に置いても様になります。キャンドルスタンド・キャンドルホルダー
また、ハート型のペーパーウェイトはギフトとして長く愛され、バカラ入門として手に取りやすい品のひとつ。誕生日や結婚祝いなどに贈られてきたものが、後年買取に持ち込まれることも少なくありません。限定コレクションは生産数が少ないため、箱と保証書が揃った状態であれば、通常のシリーズよりも高い評価がつくことがあります。
本物の証 ― バカラの刻印と箱の見方
バカラの製品には、底面に**バカラのサインマーク(刻印)**が入っています。現行品の多くはエッチング(酸化彫刻)によって「Baccarat」の文字と王冠マークが刻まれており、これが真贋確認の基本的なポイントになります。
刻印の時代変遷と鑑定ポイント

刻印は製造された時代によって形状が異なります。戦前・戦後・現代でデザインが変遷しており、刻印の様式からおおよその製造年代を推測することも可能です。古いほど手彫りのような温かみのある刻印になっていることが多く、ビンテージ品の鑑定では刻印の確認が欠かせません。付属品(化粧箱・保証書)の重要性と保管方法

また、バカラ特有の赤い化粧箱も重要な付属品です。箱・保証書・タグが揃っている品は、それだけで査定時の評価が上がります。保管の際は箱に入れたまま直射日光を避けた場所に置くことをおすすめします。買取前に確認すべき3つのポイント
買取をお考えの方は、刻印の状態・箱の有無・グラスの欠けやひびの有無を事前に確認しておくと、査定がスムーズです。
終わりに
最高級のクリスタルガラス製造ブランドにして、世界屈指のラグジュアリーメゾンである「バカラ(Baccarat)」。知れば知るほどその魅力は輝きを増していきます。
1998年から、日本はバカラにとって世界最大のマーケットとなっており、全世界売上の約3割を占めているとのこと。ビンテージから最新のシリーズまで、日本のバカラ人気は今も根強いといえます。
バカラは買取市場でも人気があり、作品によっては高額で取引されています。
製品の状態、付属品の有無によっては査定額が高くなることも少なくありません。バカラ作品の買取をご検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
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担当
小川芳朋
編集部
西洋陶磁器が専門。 美しい物と怖い物について書いています。 アンティーク食器のほか、蚤の市、廃墟、妖怪に詳しい。
