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[1]よくある遺品整理の失敗
実家をどうするかということをあらかじめ考えておくのは難しいことです。実際にそこで親の毎日の生活が成り立っているのですから、亡くなった後のことを話題にすることは控えたいと誰もが思います。あまりにも荷物が多くて、しかも使わないものが目立つといった時は「少し片付けたら?」と言うこともできますが、それ以上踏み込むのは遠慮もあります。身の回りのことができなくなって施設に入ったということであれば、空いた実家を少しずつ片付けることも考えられます。しかしそれも親が存命のときに実家の整理をどんどん進めるというわけにはいきません。ですから、遺品整理は突然に、しかも、片付けという意味ではほとんど手つかずの実家をすっかりきれいにしなければならないというものになります。しかも、不動産として処分するケースも多く、その場合は片付けに時間の猶予はありません。片付けるものの量の多さと時間のなさが、さまざまな失敗の原因となります。
よくあるのが価値のあるものをうっかり不要品として処分してしまうケース。親の荷物から出てきた茶道具や陶磁器、掛け軸や古道具などを「趣味があわない」「どうせ使わない」「キズや汚れがある」と整理業者に渡してしまうことがよくあります。また、「買取」もしてくれると聞いて先方の言うままの価格で引き取ってもらったところ、後で「あれはそんな安物じゃない」と親族に怒られたといったことも少なくありません。
[2]買取で損をしないために知っておくべき査定のポイント
骨董品の買取を依頼すると、まず査定が行われて「いくらで引き取ります」と買取価格が示されます。この査定で注意したいのが、骨董品の世界に定価はないということ。確かにある程度の相場はあります。特に評価が定まり、また作品も出尽くしているような作家のものであれば、流通価格も安定しています。また蒐集家が多く、流通市場も確立しているようなコレクションであれば、相場価格はほぼ決まっていて動きません。取引例も多く、自動的に「この年代のこれならいくら」と決まってきます。汚れやキズがあればその程度に応じて減額になる、ということです。
ところが骨董品の世界では、このように相場価格が確定しているようなものはむしろ少数派です。そのため査定をする査定士の力によって、査定価格は大きく変わります。真贋をきちんと見分けることができるのは当然ですが、ある品物を手にしたとき、これは一般には評価は低いが、ある愛好家のグループには熱烈に支持されているもので、彼らにつなげば確実に高価格で販売できるという情報とネットワークを持っていれば、同業の誰よりも高い査定価格で買取ることができます。また、ある種のジャンルに強みがあれば、そのジャンルの作品については、ほとんど名前を知られていないような作家のものでもきちんと評価ができ、同様に高い査定価格を提示することができます。つまり買取で損をしないためには、その骨董品の価値の分かる目利きを見つけることが最大のポイントになるということです。
[3]骨董品買取の成功例
実際、ほとんど価値がないと思っていたものが、査定に出して見たら高額で買い取ってもらえたという話は数多くあります。ある家では、昭和のはじめに生まれたの親の遺品を整理していた子世帯のご主人が押入の天袋から埃まみれの木箱に入っていた掛け軸を見つけました。中国のもので馬の絵が描かれていたのですが、査定に出してみると1900年代の初めから半ばにかけて中国で活躍した国民的画家で、晩年は中央美術学院長も務めた徐悲鴻(じょひこう)のものであることが分かりました。聞けば徐悲鴻は画家としての名声を得る前は非常に貧しく、無名時代に日本やフランス、ドイツなどに留学して絵を学んでいた人で、その後の無名時代には絵を売って生計を立てていたこともあり、作品数は非常に多いのだそうです。じっさいその掛け軸の絵も若書きで、汚れやシミもありましたが数十万円の買取価格が提示されました。
またある奥さまは長く茶道を嗜んでいた母親の茶道具を、もう使う人もないので買取を依頼したところ、ほとんど値が付くものはなかったのですが共箱に入っていた茶杓だけは意外に高額の買取となりました。実は千家十職と呼ばれる伝統的な職人の家の12代目、黒田正玄作だということです。黒田家は竹を使った茶道具を千家に納めてきた家系で、そういえば「生前母はこれだけは宝物」と言っていたことを思い出したといいます。
他にも、親の遺品を片付けていたある子世帯のご夫婦は、納戸の奥の棚に重箱など季節用のものや普段使っていない食器類があり、中には漆塗りで程度の良いものもあったので一括して出張査定してもらったところ、その中の一点、地味な白い陶器が李朝の白磁に間違いないと言われてびっくりしたそうです。「祖父の代の醤油差しかなにかだと思っていた」とか。
[4]遺品整理でトラブルを防ぐための注意点
後で失敗したと後悔しない遺品整理のポイントは、まず遺品整理業者の選び方です。「一括処分します」という、手間が省けることを押し出す整理業者は、「早く、どんなものでも」をメリットに謳っていますが、逆に言えば遺品の中にある骨董品や美術品の扱いが丁寧とは言えません。遺品を片付ける側も時間を気にしての作業になっていることもあり、結局価値のあるものを見逃してしまうということが起きかねません。
遺品買取を行っている骨董品専門店を見つけて依頼することが大切です。その中でも、目利きが丁寧に査定してくれる業者であることをホームページなどを見て探すこと。取り扱う骨董品の範囲の広さもチェックポイントの一つです。範囲が広ければそれだけ価値あるものを発掘してくれる可能性も高くなります。
業者の選定と同時に注意したいのが遺品に関係する兄弟や親族への事前の相談。遺品は基本的にはすべて相続人の相続財産です。価値の高いものは相続財産に組み込まれ相続税の課税対象になります。相続人の間での相談のないまま、誰かが勝手に処分すれば後々のトラブルの原因になります。遺品整理に取り組む前に必ず相続人の間で話し合いを持つようにしましょう。
[5]遺品買取を活用して遺品整理を成功させるための賢い段取り
遺品整理は、いずれは誰もが必ず行うことになる作業です。しかし、その機会は突然現れ、しかもほとんどの場合、時間的な猶予はありません。遺品は、一つひとつに親世帯の想いが込められ、家族にとっては懐かしい思い出が残る大切な品物です。それだけに大切なものをうっかり処分してしまったとか、本来高い価値のあるものを二束三文で売ってしまったという失敗はしたくありません。それを避ける大きなポイントは信頼できる遺品買取業者を見つけることに尽きます。遺品の価値やその処分の仕方を熟知していて、さまざまな経験も積んでいる遺品買取業者との出会いが後悔のない遺品整理のスタートになります。
担当
骨董品買取コラム編集室
骨董目利き修行者
将来、古美術商になるため古美術永澤で修行中。愛読書は廣田不孤斎の歩いた道。