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[1]親の遺品に骨董品? 処分前に確認すべきこと
大学進学や就職を機に実家を離れた、という人は少なくありません。そのまま結婚し、実家とは遠く離れた都市に住まいを構えるということもごく普通のことになっています。子育てを終えた親世帯のほうは、間もなく夫婦二人で旅行を楽しんだり、地元の趣味のサークルでそれぞれに同好の仲間と楽しい時間を過ごすなど、悠々と人生を送っていきます。年に1、2回は帰省をして近況を聞くこともあるとはいえ、20年、30年と離れて暮らしていると子世帯が親世帯の暮らしを詳しく知ることはほとんどありません。そのまま親が他界すると、晩年をどんな思いで、何を楽しみにしていたかといったこともわからなくなります。
親の遺品整理で海外で買ったお土産品などが出てきても、そういえばあちこち海外に出かけていたな、と思い出すくらいです。
ある家では遺品の中から中国の美術品がたくさん出てきました。しかし、それらの品物がいつ、どこで、何が気に入って買ったものか、いくらで買ったのか、子世帯には見当も付きません。実はそうしたものの中に、親が奮発して手に入れた高価な中国製の陶磁器や書画が含まれていることもあります。あるいは、古銭や切手のコレクションが出てきて、いつからこんな趣味を持っていたのだろうと、不思議な気持ちに包まれることもあります。実は遺品のなかに想像もしていなかった骨董品やコレクションが眠っていることは少なくないのです。遺品整理に取りかかるときは、まず丁寧に全部の品物を引っ張り出して「これは何だろう」「いつどこで手に入れたものだろう」と振り返って見ることが大切です。そういう時間を取らないと「全部要らない」と簡単に処分を決めてしまいかねません。
[2]「捨てないで!」 よくある見落とし骨董品
遺品で見落としが多い骨董品の多いジャンルは陶磁器です。茶道具の茶碗をはじめ花瓶、人形や置物、食器など陶磁器は美術品から日用品まで非常に種類が多く、さまざま作家、有名窯の逸品が普段使いの食器に紛れ込んでいたりします。掛け軸も「玉石混淆」の言葉がぴったり当てはまるジャンルです。というのも、昔の日本の家には床の間のある座敷が当たり前に存在していました。お屋敷と呼ばれるような豪邸や高級料亭に限らず、床の間は一般の家にもあったので、そこを飾る掛け軸もまた当たり前にありました。しかも掛け軸は1年中同じというわけにはいきません。必ず何幅かを持って、季節によって掛け替えるものです。つまり掛け軸は、非常に数が多く、もちろんその大半は一般家庭向けの普及品ですが、中には著名な日本画家の作品があったり、中国の古い水墨画など、その大きな掛け軸の山の中に銘品が隠れていることの多い世界です。もし実家の遺品の中に掛け軸があったら要注意。もしかしたら価値の高いものが紛れ込んでいるかもしれません。
[3]一般の遺品整理業者が対応できないケース
遺品整理を謳う業者の数は増えています。親世帯が単独で地方で暮らしていることが多く、遠方で、日常的な行き来のなかった子世帯が急に遺品整理に迫られるケースが増えているためです。またその家が、本家と呼ばれた家であったりすれば、先祖代々受け継いで来たものなどもあり、誰か分からない位牌といったものまで遺品として残されていることが少なくありません。遺品整理業者へのニーズは高まる一方です。
しかし、多くの場合、そうした業者は「手っ取り早く処分してほしい」という声に応えるサービスであることから、遺品のなかに骨董品が数多く含まれているような時、それがもっている価値を見極めて、適正な価格で買い取ることができません。
そもそも骨董品の査定や買取は、不要品として遺品を処分するのとはまったく異なり、幅広いジャンルに対応した美術や工芸の技法や技術に関する知見、その歴史に関する知識と鑑定眼、実際の取引経験など、さまざまな能力が求められます。まさに目利きであることが求められるのです。しかし遺品整理業者の多くに目利きは存在しません。サービスの目指すところが違うからです。遺品整理業者の仕事は、文字通り遺品を整理することであり、価値あるものを見つけて買い取ることではありません。そのため、多くの骨董品が出てきた時、遺品整理業者は対応ができないのです。
[4]買取りできるもの・処分すべきものの見分け方
うっかり価値あるものを処分してしまったという失敗をしないためには、あらかじめ買取りできるもの・処分すべきものを見分けることが必要です。それは難しそうに見えますが、実は簡単です。なぜ簡単と言えるのか、それは取りあえず「処分すべきものだけを振り分ける」だけでよいからです。買取できるかどうかは、目利きのいる買取業者でなければ最終的には分かりません。それを素人が判断できないのは当たり前です。それをやろうとすること自体に無理があります。しかし、要らないものだけをより分けることは難しくありません。これは要らないと直感できるものに、価値のあるものはありません。処分すべきものだけを、そう確信できるものだけを別にする、取りあえずすべきことはそれです。確かに、多くのものが買取りできるものの方に残るかもしれません。それで良いのです。その大きな山を丁寧に見てくれるのが、遺品買取を行なう目利きのいる骨董品専門店です。
[5]骨董品専門店ならではの査定力とは?
査定力、つまり買取価格を決定する力は、まず確固とした鑑定力を裏付けとしてもっているかどうかです。鑑定力というのはその骨董品の本質的な価値を、真贋を含めて見極める力です。これには目利きとしての総合的な力が要ります。その鑑定力を持った上で、その品物の詳細な査定、つまりキズや汚れの具合や変色・退色、経年劣化の度合いなどの評価を行い、さらに関係する流通市場の動きや販路となるコレクターの動向、今後の動きの予測などを踏まえて総合的に査定価格を導き出します。中古車のように、この車種で何年落ちで走行何キロならいくら、という単純な計算式は存在しません。骨董品の査定価格は目利きの腕次第なのです。例えば「その骨董品の熱心なコレクターがどこそこにいる」という販路に関する情報をもっているだけで、その目利きは高い査定価格を付けることができます。売り先や市場が思い浮かばない査定者は自信をもって価格を付けることができません。
[6]祖母の遺品で出てきた茶道具を古美術永澤に査定してもらったら……
[お客様の遺品買取体験談]
――母方の祖母が96歳で亡くなりました。最後の2週間ほどは病院に入りましたが、それまで病気らしい病気もせず、趣味のお茶の世界を大いに楽しんだ末の大往生です。一人娘である私の母が相続人でしたが、母は2年程前に膝を痛めてなかなか治らず、歩くのも辛そうにしています。「あなたちょっと遺品の整理を手伝って」と娘の私に声がかかりました。
懐かしい祖母の家に行って和室の押入を見ると、長年茶道を嗜んできた人だけあって茶碗や茶釜、陶器、掛け軸などの茶道具がほとんどすべてが桐の箱に入っていて、箱書きもあります。母も私もお茶はやらないのでその価値が分かりませんが、高価なものではないかと思い、インターネットで見つけた古美術永澤に相談して、目利きの方に出張査定してもらいました。
当日、一つひとつを丁寧に検分してくれた永澤さんですが、「残念ながらすべてお稽古用のもので作家物はなく、値の付くようなものはありません」という話でした。ただ一点だけ、やはり箱に入っていた棗が、これは蒔絵で装飾された作家ものでコレクターに人気があるものだということから、予想を上回る金額で買い取ってくれました。やはり素人では分からないものですね。目利きの力を改めて実感しました。祖母もきっと『よく見つけてくれたね』と喜んでいると思います。やはり自分で決めつけずにプロに相談してよかったと思っています」
担当
骨董品買取コラム編集室
骨董目利き修行者
将来、古美術商になるため古美術永澤で修行中。愛読書は廣田不孤斎の歩いた道。