マイセン「青い双剣」が物語る歴史と真贋

ブランド食器買取 2026.09.10
マイセン(MEISSEN)開窯275周年記念 歴代双剣マーク プレート(飾り皿)

マイセンの器を裏返すと、高台の内側に刻まれたコバルトブルーの双剣マーク。洋食器ファンなら誰もが知るマイセンのシンボルマークは、単なるブランドロゴではなく、300年以上にわたる模倣(贋作)との闘い、そして職人たちの命がけの手仕事の歴史そのものです。

このマークの形状や描き方を見るだけで、そのマイセンがいつの時代に作られたものなのか、どのような背景を持つのかを紐解くことができます。今回は古美術の視点から、マイセンのシンボル「青い双剣マーク」の重要性と、それを支える職人たちをご紹介します。

「青い双剣マーク」 の重要性

ザクセン選帝侯の紋章と「贋作防止」の歴史

ヨーロッパ初の白磁として成功したマイセンを襲った「大量の模倣品(贋作)」。それらを防ぐための商標(窯印)として、マイセンのシュタインブリュック(天才絵付師ヨハン・グレゴリウス・へロルトの義理の兄弟・検査官)は、 ザクセン選帝侯の紋章からとった「交差する二本の剣」を染付の青絵具で付けることを提案し、1723年以降、採用されます。

数年間、十字の双剣マークは時折使われるだけでしたが、やがて工場で絵付けした製品の底につけられることが多くなり――大抵は最下級の見習いが描いていましたが――、次第にマイセンの名と同じ意味を持つようになっていきます。

将来、この青い双剣マークが、世界でもっとも多く捏造される商標になるとは、誰も想像しませんでした。

近代になって商標保護法の制定に伴い、1875年、交差した剣のマークはマイセンの公式商標として登録され、ヨーロッパ最古にして現在も継続して使われている登録商標となりました。

査定現場におけるマークの意味

時代ごとにマークの形状(交差する角度や柄のボタン、線の太さ)が変化するため、「年代特定」と「真贋鑑定」の最も重要な手がかりになります。

しかし、1722年の導入初期は窯印をつけるルールが徹底されていなかったため、非常に古い初期作品(オールドマイセン)にはマークがない本物も存在します。
また記念年(マルコーニ誕生200年など)に昔のマークを限定復刻・使用したケースもあります。

「マークの形=年代」と機械的に判断できない理由

機械的なマニュアル査定では「マークの形」だけを見て年式を誤認したり、あるいは逆に「復刻品だから価値が低い」と安易に片付けてしまうリスクがあります。
「磁器自体の肌合い」「絵付けのタッチ」「金彩の厚み」「釉薬のノリ」 など、作品全体から醸し出される時代感や手仕事を総合的に見極める「目利き」が不可欠です。

「青い双剣マーク」の変遷

双剣マーク正式に採用された後、最高責任者の交代や、輸出先の事情(宗教的背景で「剣(十字架)」が好まれない国への配慮)などによっても、少しずつ形が変化していきました。

代表的な時代のマークの特徴

マルコリーニ期(1774年–1814年)

歴史的背景
カミッロ・マルコリーニ伯爵が製作所の指揮を執った時代。自身の管理体制と主導権を明確にするため、新たな識別印が導入されました。
マークの意匠
交差する二本の剣の根元部分に、一点の「星(★)」が刻まれているのが最大の特徴です。

爛熟期(1850年代)

マークの意匠
優美な弧を描きながらゆったりと交わる、力強く太い双剣。マイセンが最も華やいだ時代の美意識を象徴しています。

19世紀後半

マークの意匠
高い位置で交差する双剣は、剣の「つば」の造形を際立たせています。焼成温度や釉薬の影響からか、独特の「にじみ」が見て取れるのもこの頃の特色です。

ファイファー期(1924年–1934年)

歴史的背景
名ディレクター、マックス・アドルフ・ファイファーの在任期間を示す刻印。近代マイセンにおける重要な識別点となります。
マークの意匠
交差する刃の間に、一点の「ドット(点)」が打たれています。

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「青い双剣マーク」を書き入れる専用職人

剣の絵付師

マイセン磁器の裏面に刻まれる「青い双剣マーク」は、専門の技能を持つ絵付師(男性:シュヴェルトラー / Schwertermaler、女性:シュヴェルトレリン / Schwertermalerin)の手によって描かれます。

修正不可能な「一発勝負」の瞬間

マークが入れられるのは、成形後の「素焼き(釉薬をかける前)」の段階です。
釉下彩(下絵付け)として、コバルトブルーの絵の具を用い、職人が筆で一つひとつフリーハンドで手描きします。

多孔質の素焼き土に絵の具が瞬時に染み込むため、一筆描いた後のやり直しや修正は一切効きません。寸分の狂いも許されないこの一筆は、マイセン磁器の真正(本物であること)を証明する最高峰の緊張感が宿る作業です。

製品ではなく『作品』として——古美術永澤のマイセン鑑定

一客のカップの裏にある小さな「青い双剣」には、300年の歴史と、職人が一筆にかけた誇りが凝縮されています。

マイセンの価値は、単なる製品の綺麗さだけでなく、こうした歴史的背景や職人の手仕事の痕跡を正しく読み解くことで初めて正当に評価されます。

ご自宅にあるマイセンの年代や価値を知りたい方、受け継いだコレクションを大切に引き継ぎたい方は、ぜひ伝統と真贋を見極める古美術永澤へご相談ください。

参考文献

  1. ジャネット・グリーソン(著),南條 竹則(翻訳)()『マイセン: 秘法に憑かれた男たち』集英社
  2. 橋田 正信(著), 田中 学而(写真)()『マイセン磁器: 時を超える美』平凡社
  3. 南川 三治郎()『欧州陶磁紀行―マイセン|ウェッジウッド|セーヴル』世界文化社
  4. 加納 亜美子,玄馬 絵美子()『あたらしい洋食器の教科書 美術様式と世界史から楽しくわかる陶磁器の世界』翔泳社

担当

コラム編集室 AYA

サイトコラム編集者

西洋美術が好きだけど、最近東洋美術も面白く感じてきた。学芸員資格を持っている。作家コラムを中心に更新中。