
板谷波山による「氷華磁延壽文花瓶」です。波山は近代陶芸の巨匠として知られ、帝室技芸員に任じられた名匠であり、明治から昭和にかけて日本陶芸界に大きな足跡を残しました。作品名の「延壽」(えんじゅもん)と題された文様には、長寿や吉祥の意味があります。
本作の最大の特色は「氷華磁」と呼ばれる独特の結晶釉の美しさにあります。釉薬(※みょうやく:陶磁器の表面に施されるガラス質の膜を作る材料のこと)の中で結晶が生成され、氷の華が咲いたかのように広がる光彩が、器面全体を幽玄に彩っています。その表情は一つとして同じものがなく、偶然と緻密な技術の融合によって初めて実現するものです。波山の研究心と審美眼の結晶といえるでしょう。
花瓶としての造形は端正で、やや引き締まった口造りと、ゆったりと膨らむ胴部のバランスが絶妙です。花を生けるための機能を備えながらも、そのまま鑑賞に耐える芸術性を兼ね備えています。氷華釉の淡い光沢と、文様の持つ象徴性が融合し、工芸と美術の境界を超えた存在感を放っています。
本作は、板谷波山が探究した氷華釉の到達点を示す作例として、美術的にも市場的にも大変意義深い一品です。
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2025.09.09
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