
中国市場向けに輸出されたと推定される懐中時計をお譲りいただきました。ローマ数字の文字盤にスモールセコンドを備えた典型的なヨーロッパ式のデザインでありながら、鍵部分には「謙洋信行」の刻印が確認され、当時の中国市場における輸入時計販売の実態を物語る興味深い逸品でした。
時計本体はゼンマイ巻き式で、針合わせや巻き上げに用いられる鍵が付属していました。この鍵には「謙洋信行」という漢字が右書きで刻まれており、当時中国で活動していた「独逸商会支那輸出入銀行株式会社」の時計商の名前です。これは清末から中華民国初期にかけて、ヨーロッパ製時計を中国市場に供給するため、日本およびドイツ系商会が連携していた時代背景を物語るものです。
懐中時計本体は、白のエナメル文字盤に繊細なローマ数字が並び、6時位置には秒針を備えたスモールセコンドが設けられており、当時の上流層に愛用された品であることがうかがえます。
保存状態も良好で、風防や針、文字盤にも大きな損傷はなく、実用品としての価値も十分に保たれていました。とくに鍵の存在とそこに刻まれた情報は、ただの実用品としての価値を超え、当時の国際的な流通経路や商習慣を証言する歴史資料的側面を備えております。
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