
19世紀末から20世紀初頭にかけて製造された、対照的な意匠を持つ懐中時計2点を、特製木箱入りのペアセットでお譲りいただきました。いずれも当時のヨーロッパ市場からアジア市場に向けて輸出された品であり、実用性と装飾性を併せ持つ貴重な構成です。
右側の時計は、文字盤に「DENT LONDON」の刻印を有し、イギリスの名門時計商「DENT(デント)」が名義を冠した商館時計です。白の文字盤にローマ数字を配し、6時位置にはスモールセコンドを備えた実用的な設計で、当時の男性向け時計において標準的かつ信頼性の高い構成といえます。「DENT」は英国王室やビッグ・ベンの時計機構も手掛けた由緒あるブランドであり、本品はスイス製ムーブメントを用いてロンドン経由で日本市場へ供給された、典型的な商館時計です。
一方、左側の時計は、文字盤全体に繊細な花輪とリボンをあしらったエナメル装飾が施された、華やかな女性用の装飾時計です。ブランド名などは記されていませんが、その意匠の精緻さや構造から、スイス・ジュネーブ周辺の装飾時計工房で制作されたものと考えられます。優雅なピンクのリボンと薔薇の模様は、ベルエポック期の美意識を反映し、贈答や社交の場で用いられた高級装飾時計であったことがうかがえます。
このように、ひとつは実用性に優れた男性向け時計、もうひとつは美術工芸品としての魅力を備えた女性向け時計で構成される本セットは、当時の文化背景において「夫婦時計」や「婚礼・贈答用のペア時計」として用いられた可能性が高く、単品ではなく対として揃っている点において、歴史的価値が際立ちます。
保存状態も良好で、時計を収める専用の木箱には深紅のベルベットが敷かれ、ふたつの時計が左右対称に配置されています。時代を超えて大切に保管されてきたことがうかがえる、大変趣深い逸品でした。
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