
スイスの名門高級時計ブランド、ギュブランによって1950年代に製作されたワールドタイム懐中時計をお譲りいただきました。ブランド中央のロゴ「GÜBELIN」に加え、外周には世界各都市の地名がびっしりと刻まれ、回転式の24時間表示リングを用いて複数のタイムゾーンを同時に読み取ることができる、当時としては非常に先進的な機能を備えた一点です。
文字盤は、時間目盛と針のみというシンプルな構成で、日付表示やアラーム機構は備えておらず、非常にミニマルな意匠が保たれております。外周に刻まれた都市名の中には「Saigon」「Peking」「Bombay」など、当時の地政学的名称が残されており、1950年代前半の地図感覚や国際航路をそのまま時計に写し取ったような資料的価値が感じられます。
類似のモデルとして、1960年代以降には赤字で「DATE」表記が追加されたタイプや、腕時計型へと進化したモデルも確認されておりますが、本品にはその「DATE」マークが存在せず、ワールドタイム機能の初期形態をそのまま残した、貴重なクラシックモデルといえます。文字盤中央のGÜBELINロゴ以外に一切の装飾がなく、全体に抑制の効いた佇まいは、実用品でありながらもギュブランらしい気品と静謐さを備えています。
ギュブランは、スイス・ルツェルンを拠点に1854年に創業された高級時計・宝飾の老舗で、パテック フィリップやIWCなどとも提携しながら、独自ブランドの時計も精力的に展開してきました。本品はその中でも、航空路の拡大や国際電報通信の発展に対応するかたちで制作された実用懐中時計の代表例であり、航路管理者やビジネスマン向けに重宝されたと考えられます。
経年による微細な擦れこそ見られるものの、文字盤の針や目盛は健在です。地名配置やベゼルのレイアウトから、機能美と情報整理のバランス感覚に優れたデザイン性が感じられる、現代の視点から見ても完成度の高い逸品でした。
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