
懐中時計2点をセットでお譲りいただきました。いずれも20世紀初頭に製造されたもので、機能性と美観を兼ね備えた実用品として当時高く評価されていた時計です。それぞれメーカーや仕様に違いが見られますが、使用目的や保管状態から見て、非常に理にかなった組み合わせとなっておりました。
右側の時計は、アメリカの名門ウォルサム社(Waltham Watch Company)によるもので、視認性の高いローマ数字の文字盤に加え、13〜24時を示す赤いアラビア数字が外周に配された、いわゆる鉄道時計風の実用モデルです。6時位置にはスモールセコンドが備わり、シンプルながらも確かな精度と信頼性が感じられる作りとなっています。金属製のチェーンが取り付けられており、日常の携行用として長く使用されていたことが窺えます。
一方、左側の時計はMOBILE WATCH CO.によるヨーロッパ製の懐中時計で、18K相当の金張りケースと、繊細に造形された金色のスペード型針が印象的です。特にこの針は、軸元に繊細なくびれと装飾が施された意匠で、光の角度によって美しくきらめくよう設計されており、視認性と優雅さを両立した造形美が感じられます。精緻なギヨシェ模様が施されたケースや、中蓋の存在などから、ドイツ語圏やオーストリア周辺で製造された高級装身具時計としての性格がうかがえます。針や文字盤のデザインは装飾的である一方、ムーブメントにはブレゲひげゼンマイやアンカー脱進機が用いられており、実用性も兼ね備えていたことが分かります。
ストラップの違いも興味深く、右の時計には細いチェーンが、左の時計には太めの縄状コードが取り付けられており、それぞれの用途や場面に応じて使い分けられていたことが分かります。正装用と作業用、あるいは主時計と予備時計といった位置づけで、一人の所有者が用途別に用いていた実用的な2点セットであった歴史を感じさせます。
2本ともに20世紀初頭の機械式時計としては保存状態も良好であり、それぞれの時代背景や機能美をよく伝える貴重な組み合わせとして、高く評価させていただきました。
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