
中国市場向けに特化して製造された、スイス・EDOUARD JUVET(エドゥアール・ジュヴェ)社の懐中時計をお譲りいただきました。本品は、文字盤中央に「有喴」の漢字銘を配し、当時ジュヴェ社が中国市場専用に登録していた正式な商標が明確に刻まれた希少な個体です。
この懐中時計は、19世紀後半にジュヴェ社が清朝の上流階層・知識人・商人階級向けに展開した東洋趣味の輸出モデルに該当します。盤面には西洋式のローマ数字と漢字が共存し、機構は当時主流であった鍵巻き式を採用。文字盤の書体には中国風の筆致が見られ、ブランド名の表示すら東洋文化に親和的な形式へと変化させた、非常に珍しい仕様となっております。
特筆すべきは、その意匠に込められたシノワズリ(中国趣味)的美意識です。巻き鍵には繊細な花柄のエナメル装飾が施されており、時計本体とセットで贈答・記念用として誂えられており、当時の上質な工芸時計としての格式を感じさせます。リューズを持たず、巻き鍵でのみ操作する古式構造も19世紀的な特徴であり、現存する個体はごくわずかです。
エドゥアール・ジュヴェ社は、1873年に「有喴」銘を正式に商標登録しました。これにより漢字銘入りの懐中時計は富裕層の間で人気を博しましたが、大量生産されることはなく、今日ではコレクター市場でも極めて入手機会の少ない希少品とされています。
今回お譲りいただいた時計は、こうした歴史的・工芸的背景を備えた貴重な一品であり、現代に残された文化を携えた懐中時計として、その価値を高く評価させていただきました。
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