Hampden 懐中時計

アメリカ・Hampden（ハンプデン）社製の懐中時計をお譲りいただきました。
金張りのハンターケースに収められた、流麗な筆記体ロゴとローマ数字の文字盤が印象的な一本で、19世紀末の上品な時計文化を色濃く伝える逸品です。

本品の最大の特徴は、その繊細な筆記体ロゴにあります。「Hampden」の文字は細く優美な線で記されており、現代的な実用時計とは一線を画す、当時ならではの装飾性と手仕事の味わいを感じさせてくれます。このような細字ロゴは1895年から1900年頃の限られた時期に用いられたものであり、同社の上級ラインに見られる意匠です。

文字盤には、実用性よりも美しさを重視したローマ数字が配されており、黒のリーフ針との調和が時計全体に気品と風格を与えています。当時の懐中時計は、単なる道具ではなく、持ち主の趣味や身分を映し出す装身具としての役割も担っており、本品もまさにそのような時代性を体現したデザインです。

1890年代末のアメリカでは、大量生産と洗練された工芸技術が融合し、懐中時計は紳士の必需品として社会的な地位の象徴とされていました。中でもHampden社は、精巧な造形と気品ある仕上げで高い評価を得ており、本品のような金張りケース仕様のモデルは、贈答用や格式ある席での使用を想定して製作されたと考えられます。

リューズやボウの形状も当時の典型をよく保っており、手にした際の重厚感や装飾の美しさは、今なお見る者を魅了します。製造からおよそ130年近くを経た現在においても、このように保存状態の良いドレスモデルは希少性が高く、アンティークとしての価値を十分に備えた品であると判断させていただきました。

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