
英国・J.W. Benson(ジェームス・ベンソン)社によるアンティーク懐中時計をお譲りいただきました。
上品な筆記体ロゴと端正な文字盤を備えた本品は、19世紀末のロンドンにおける英国製高級懐中時計の優れた一例といえる逸品です。
文字盤中央には「J.W. Benson / London」のサインが見られ、その筆致は極めて繊細かつ装飾的です。中でも“L”の文字が内側にくるりと巻き込むように描かれており、これは1890年代後半から1900年頃にかけて、一部の上級モデルでのみ採用されたロゴ形式と考えられます。ローマ数字と黒いリーフ針を組み合わせたデザインも、当時の英国紳士の装いに調和する、品格ある意匠です。
本品には「MADE IN ENGLAND」の記載がありませんが、これはむしろ本時計が1910年以前に製造された国内向け高級品であることを示す、極めて重要な判断材料となります。当時、英国において原産国表示は輸出用大量生産モデルにこそ義務的に付されるものであり、国内市場向けの上級品やクラフト系モデルでは、”London”の表示だけで十分な品質保証とされていたためです。ブランド名と都市名の明記のみで信用を成立させていたのは、まさに格式あるメーカーの証といえるでしょう。
J.W. Bensonは19世紀後半から20世紀初頭にかけて王室御用達として知られ、ロンドン・ラドゲートヒルを拠点に高品質な懐中時計を多数手掛けてきました。本品もまた、視認性よりも美しさや装身性を重視した設計がなされており、当時の英国時計文化が大切にしていた“時を装う”という思想を今に伝えてくれます。
英国ヴィクトリア朝後期を代表する高級ドレス懐中時計として、高く評価させていただきました。
関連買取実績
-
2025.07.07
-
2025.07.07
-
2025.07.02
-
2025.07.02