
木彫による増長天立像をお譲りいただきました。全体的に威厳ある構えと荒々しい忿怒の表情を特徴とする、四天王の中でも特に動的な印象を与える作品です。本像は、右腕を力強く振り上げた姿勢を取り、戦闘神としての側面を強く感じさせる構造となっておりました。
頭部には透かし彫りの宝冠をいただき、顔は朱と墨によって激しい表情が描写されております。眉間をひそめ、牙を剥いた面相は、増長天特有の「南方守護・威圧の化身」としての意義を強く伝えております。髪は彫り上げられて巻き上がり、背面には円形の光背が取り付けられていましたが、部分的に欠損も見られました。
胸部から腹部にかけては精緻な甲冑が施され、表面にはかすかに金箔の痕跡も確認されました。特に肩や胸元の装飾的なリング状の意匠や、筋肉表現の写実性からは、江戸期あるいはそれ以前の写実傾向に影響を受けた作風と考えられます。
保存状態としては、全体に経年による埃の付着や彩色の剥落が見受けられたものの、構造的な破損は少なく、仏像としての表現力と威圧感は失われておりませんでした。特に顔立ちと姿勢の造形は、仏師の力量をよく伝えており、美術的・宗教的な価値の両面から高く評価できる一体でした。
本作品は、単体での現存ながら、四天王像の中でも特に印象に残る増長天の典型例といえ、寺院関係者や仏教美術コレクターにとっても資料性の高い貴重な一作でした。
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