
忿怒の形相をたたえた鬼神像をお譲りいただきました。本像は、仏教における護法神や密教的眷属像としての要素を色濃く備えた造形であり、怒りの表情や力強い肉体表現を通じて、悪を退け、道を護る存在としての迫力を宿した一作です。
本像最大の特徴は、その首元に配された「髑髏瓔珞(どくろようらく)」です。これは仏教、とりわけ密教において用いられる象徴的な装身具であり、人間の頭蓋骨を模した意匠を連ねることで、「無常」や「死の克服」、「煩悩を超越する智慧の力」を視覚的に表現するものです。不動明王や愛染明王、またはその周囲に侍る夜叉・羅刹のような尊格においても見られるこの装飾は、恐怖や死そのものすら制する護法の力を意味します。
頭部は獣的な輪郭を持ち、眉は強く巻き上がり、口元には鋭い牙をのぞかせるなど、写実的な人物像というよりは、神性や霊性を備えた「人ならざる存在」として表現されています。特に、瞳孔のない白目は、古来より魔除けや霊的象徴として用いられ、見る者に強い威圧と加護の力を与える造形的工夫といえます。
全体としては力強い体躯と素朴な木肌が調和し、長年の信仰とともに伝えられてきたような、宗教彫刻ならではの重みを感じさせる作品でした。
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