
伊万里焼の麒麟(きりん)文様大鉢をお譲りいただきました。
本作は明治期頃に制作されたと考えられるもので、中央に描かれた麒麟を中心に、縁起の良い模様が巧みに配置されています。麒麟は古代中国から伝わった霊獣で、平和で豊かな世にしか姿を現さないとされる存在です。そのため日本でも吉祥の象徴として尊ばれ、器物や調度にしばしば用いられました。この皿も、麒麟を配することで「家の繁栄」「一族の安泰」を願う意味が込められています。
背景を覆う鱗文は、魔除けや再生を表す模様として古来より伝えられたもので、ここでは麒麟の神聖性を際立たせています。縁に描かれた市松文は、途切れることなく続く繁栄を意味し、牡丹文は富貴を象徴します。こうした模様の組み合わせは単なる装飾ではなく、当時の人々がめでたさを重ね合わせるための「祈りのデザイン」でもありました。
明治期の伊万里焼は、江戸時代から培われた技術を基盤にしつつ、西洋への輸出需要に応えるかたちで大きく発展しました。金彩や赤絵を豪華に用いた華やかな様式は、ヨーロッパの市場で高く評価され、日本を代表する美術工芸品として位置づけられました。本作に見られる精緻な文様や裏面の窯印も、その輸出伊万里の系譜を示す特徴です。
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