
清末民初を代表する巨匠・呉昌碩による牡丹と水仙の掛軸です。呉昌碩は書・画・印を一体とした「三絶」の芸術家として知られ、その花卉画は文人画と吉祥画を融合させた独自の世界観を築き上げています。
本作では、上部に豪華に咲き誇る赤い牡丹、下部に清らかな水仙、そして中央には重厚な奇石が描かれています。牡丹は富貴(※ふうき:社会的地位や名声、華やかさを兼ね備えた理想の境遇のこと。古来、中国では富と高い地位を幸福の象徴として用いられました)や繁栄の象徴として古来より「花王」と称され、吉祥の意を持ちます。一方、水仙は冬から春にかけて咲くことから清廉や高潔を象徴し、中国では、文人や詩人が理想とした「世間の名利や俗事を避け、自然の中で閑雅に暮らすこと」を託した花として愛好されてきました。そして奇石は、自然の造形美と精神性を象徴する文人趣味の表現であり、鑑賞と精神修養の対象とされました。
牡丹と水仙という対照的な花を奇石と組み合わせることで、富貴と清雅、華やかさと慎ましさ、俗と雅といった両極が画面に調和し、呉昌碩独自の文人画的世界が顕されています。この構成は、ただの花の絵にとどまらず、画家自身の思想や美意識を映し出すものとなっています。
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