
ローマ帝政の創始者である初代皇帝アウグストゥスの崩御を追悼し、後継者ティベリウス帝によって鋳造されたとされるデナリウス銀貨をお譲りいただきました。本品は、西暦14年のアウグストゥス死去を受けて発行された、神格化を示す記念貨幣の一種と見られます。
表面には右向きのアウグストゥスの横顔が刻まれており、髪型や顔立ちには威厳と神聖さを兼ね備えた古典的なスタイルが表現されています。月桂冠あるいはリボン装飾が後頭部に描かれ、これは神格化された皇帝を象徴する意匠と解釈されます。刻字は摩耗しているものの、「DIVVS AVGVSTVS(神アウグストゥス)」に相当する語があったことが文脈から推定されます。
裏面には翼を大きく広げた鷲(イーグル)が堂々と立ち、その脚元には月桂冠あるいは花輪状の装飾が添えられています。この鷲の図像は、アウグストゥスの魂が神々の世界へ昇天する様を象徴しており、ローマ帝国の国葬儀礼および「皇帝は死して神となる」という思想が如実に反映された構成です。
本コインは、ローマ帝政初期の宗教的・政治的な象徴性を帯びた貨幣であり、単なる決済手段に留まらず、国家権力と神性の融合を示す視覚的資料として極めて重要な位置づけにあります。特にこの「鷲と月桂冠」の意匠は、後代のローマ皇帝たちによっても再利用される典型的構図となり、後世への影響力も大きいとされます。
保存状態としては、やや摩耗が進んでいるものの、主たる図像ははっきりと視認可能であり、鑑賞・研究・収集のいずれの観点からも評価に値します。高純度銀による鋳造である点も、美術的・資料的価値を高めています。
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