
セレウコス朝時代の希少な銀貨を買取らせていただきました。
ヘレニズム期の地方造幣所で発行されたと推定される、意匠の異なるアンティオコス4世のテトラドラクマ銀貨です。
本品は、アンティオコス4世エピファネス在位中(紀元前175年~164年頃)に発行された銀貨で、王の神格化された肖像を表面に、裏面には神アポロンとみられる立像を配した構成が特徴的です。表面にはディアデム(王冠)を着けた若い王の横顔が浮彫りされており、髪の流れや輪郭には柔らかく躍動感のある描写が見られます。この表現は王権を強調する一方で、ギリシャ的理想美を投影した造形となっており、当時の地方都市における造幣様式の特徴をよく表しています。
裏面には、星を手に掲げる神の立像とともに、周囲にはギリシャ語で「ΒΑΣΙΛΕΩΣ ΑΝΤΙΟΧΟΥ(王アンティオコスの)」と刻まれた銘文が見られます。一般的に知られるアンティオコス4世の銀貨では、玉座に座したゼウス像が多く見られますが、本品はその系統とは異なり、より象徴的かつ祭祀的なニュアンスを持つ意匠が採用されています。月や星など天体のモチーフが加えられている点も、発行地における宗教的な意味合いや文化的背景を示唆する重要な手がかりとなります。
本銀貨は、セレウキアやエクバタナ、あるいはスーサなどの地方造幣所で発行された可能性が高く、流通範囲や政治的文脈によってデザインに差異が生じていたことを示す好例です。古代貨幣としての学術的価値と視覚的美しさを兼ね備えた貴重な一枚と評価いたしました。
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