
中世イスラーム世界において鋳造された、アッバース朝時代のディルハム銀貨を買取らせていただきました。この銀貨は、イスラーム黄金時代におけるアッバース朝(750〜1258年)の時代に鋳造されたと考えられ、当時広く流通していた銀ディルハムの一種です。コインの両面は、人物像を一切描かず、クーフィー体のアラビア文字のみで構成されています。この様式は、偶像崇拝を禁じたイスラームの信条に基づくものであり、宗教的信念が貨幣表現にまで貫かれていることを示しています。
一方の面には、イスラーム信仰を示す中心的な文言である「アッラーの他に神はなし、ムハンマドはその使徒なり(シャハーダ)」の文字が中央に配置されており、それを囲むように鋳造年や鋳造地が記されたアラビア文字の銘文が環状に刻まれています。書体は太く堂々としたクーフィー体で構成されており、やや簡略化された角張った筆致が印象的です。
この個体は、やや太字であること、外周にある丸印(点円)がはっきりとしたことから、やや地方都市で鋳造された可能性があります。ヒジュラ暦の記載も認められ、推定では9世紀前半(西暦830〜850年頃)の発行と考えられます。
銀の保存状態は良好で、全体に摩耗が少なく、文字の可読性も十分保たれておりました。宗教的意味合いと歴史的背景を兼ね備えた、学術的価値の高い銀貨であると判断いたしました。
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