
アッバース朝時代のディナール金貨をお譲りいただきました。
8世紀末〜9世紀初頭にかけてのイスラーム世界の最盛期に鋳造された、宗教的・歴史的意義の高い一枚です。
この金貨は、アッバース朝の第五代カリフであるハールーン・アル=ラシード(在位786〜809年)の治世中、西暦795年から803年頃(ヒジュラ暦179〜187年)に鋳造されたと考えられます。材質は金で、当時の標準的なディナール形式に準じています。
片面には、中央に信仰告白文が刻まれ、周囲には定型句が二重円状に配されています。これはアッバース朝金貨に見られる典型的なレイアウトであり、政治権力と宗教的正統性を同時に示す造形となっています。
もう一方の面には、「彼(ムハンマド)を導きと真理の宗教と共に遣わされた」というクルアーン第9章33節に基づく句が三行にわたって記されており、これもまた同時代のディナールに頻出する文言です。周囲には、発行の宣言文やカリフ名が読み取れる形式となっています。
注目すべき点は、もう一方の面の中央上部に打たれた小さなドットです。この点は、通常のディナールには見られない要素であり、おそらく鋳造時の識別用印として意図されたものと考えられます。これは、バグダード(マディーナト・アッ=サラーム)鋳造と推定される金貨群の中でも、ごく一部にのみ見られる稀少なバリエーションであると評価されます。
保存状態は極めて良好で、銘文・文様ともに鮮明に残っており、金の光沢とともに当時の文化と信仰の深さを今に伝えるものです。アッバース朝黄金期を象徴する高品位の金貨として、歴史的・美術的価値に優れた作品でした。
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