
パルティア王国時代の銀貨をお譲りいただきました。
本品は、アルサケス朝の中でも後期に属する王、アルタバヌス2世(在位12年〜40年)の治世に鋳造されたと考えられる、典型的なドラクマ銀貨です。
片面には、左向きの王の胸像が力強く描かれており、やや角ばった髭と簡素なディアデム(頭飾り)を巻いた姿が印象的です。髪は整えられ、イヤリングも明瞭に描写されており、王権と威厳を表す意匠として定型化されたアルサケス王家の様式に従っています。粒点で囲まれた縁取りが、肖像の存在感をさらに際立たせています。
もう一方の面には、髭のない弓兵が玉座に座り、右手に弓を掲げる姿が配されています。この「座る弓兵像」は、アルサケス朝銀貨において最も象徴的な図像のひとつであり、中央アジア的な遊牧的伝統と、ギリシャ文化の形式美が融合した構成といえます。周囲にはギリシャ語で「ΒΑΣΙΛΕΩΣ ΒΑΣΙΛΕΩΝ ΑΡΣΑΚΟΥ ΕΥΕΡΓΕΤΟΥ ΔΙΚΑΙΟΣ ΕΠΙΦΑΝΟΥΣ ΦΙΛΕΛΛΗΝΟΣ(王の中の王、善行者、正義ある、顕現せる、ギリシャ人の友たるアルサケス)」と刻まれており、王の称号と政治的理念が誇らしげに語られています。
肖像や文字の摩耗はあるものの、意匠の構成と銘文の残存から十分な学術的価値と歴史的意義を持つ一枚であると評価いたしました。
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