
彫金の帯留
先日、お客様よりお譲りいただいたのは、菊花をモチーフにした美しい彫金の帯留です。淡い紫色の組紐に通されたその姿は、一目で上質なものと分かります。中央には銀色の菊、左右には金色に輝く花と葉が配され、葉の立体的な造形も見事です。金属の重厚感と、花びら一枚一枚の柔らかな表情が見事に調和しています。
帯留は、帯締めの中央に付けることで、着物全体の印象を格上げする大切な装身具です。和装が日常であった時代には、素材や意匠に凝った様々な帯留が作られました。特に彫金で作られた帯留は、金属工芸の職人たちがその技術を競い合った、まさに「身に着ける美術品」です。
彫金とは、タガネという工具を使って金属の表面に文様を彫り込んでいく伝統的な技法です。日本における彫金の歴史は古く、刀の鍔(つば)や小柄(こづか)といった刀装具の装飾から発展しました。江戸時代には、町人文化の隆盛とともに、根付や煙管(きせる)、そして帯留といった生活雑貨にも彫金が施されるようになります。
明治時代に入ると、廃刀令によって多くの刀装具職人が仕事を失いますが、彼らはその高度な技術を活かし、帯留やかんざしなどの和装小物、さらには海外向けの工芸品へと活躍の場を広げていきました。このような背景から生まれた彫金帯留には、刀装具にも通じる力強く繊細な彫り口や、異なる金属を組み合わせる「木目金(もくめがね)」や「象嵌(ぞうがん)」といった高度な技法が見られることがあります。
今回お譲りいただいた帯留も、銀色と金色の金属を巧みに使い分けることで、菊の花の表情を豊かに表現しています。花びらの繊細な彫り込み、葉脈の立体的な表現からは、作者の並々ならぬ技術と美意識が伝わってきます。
現代では着物を着る機会が減ったかもしれませんが、帯留をはじめとする和装小物は、その小さな意匠の中に日本の歴史や文化、職人の魂が宿る美術品です。一点一点に込められた物語を紐解き、その価値を正しく評価することが私たちの使命だと感じています。
時代を超えて大切にされてきたお品物は、次に必要とする方の元へと、私ども古美術永澤が責任を持って橋渡しさせていただきます。ご自宅に眠っている和装小物や美術品がございましたら、ぜひ一度、古美術永澤にご相談ください。
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