
蒔絵 棗(なつめ)
先日、お客様より見事な意匠が描かれた蒔絵の棗(なつめ)をお譲りいただきました。
棗は、茶道で抹茶を入れるのに用いられる蓋物の一種です。特に、漆塗りの棗は格調高く、その上に施される蒔絵は、職人の腕の見せ所となります。今回お預かりしたお品は、まさにその漆芸の粋を極めた逸品でした。
まず目を引くのは、その艶やかな黒漆です。漆黒の表面には、細やかな金粉や銀粉を蒔く「蒔絵」の技法によって、繊細な文様が描かれています。中心に配されたのは、金色の文字。その力強い筆致は、棗全体に荘厳な雰囲気を与えています。
そして、その文字を取り囲むように描かれているのが、菊の花々です。日本の伝統的な吉祥文様である菊は、古くから長寿や繁栄を象徴するとされ、多くの工芸品に用いられてきました。この棗に描かれた菊は、金色、銀色、そしてわずかに赤みを帯びた金色の三色で表現されており、見る角度によって様々な表情を見せてくれます。
蒔絵の技法にも注目すべき点があります。この菊の花は、ただ単に色を付けているだけでなく、花弁の一枚一枚に立体感を持たせるなど、巧みな蒔絵の技法が用いられています。これにより、花の繊細な表現が際立ち、奥行きを生み出しています。
棗の造形自体も大変優れています。胴の部分は、丸みを帯びたやわらかな曲線を描き、手によく馴染む形状です。蓋と身がぴったりと合わさり、気密性も高いことから、実用性も兼ね備えた良質な棗であることがわかります。
このような蒔絵の棗は、時代や作者によって価値が大きく変動します。今回の棗も、熟練の職人によって手間暇かけて作られたことが伺える価値のあるお品でした。目立った傷や漆の剥がれもなく、大切に扱われてきたことが伝わってまいります。
私ども古美術永澤では、お品物一つひとつの背景にまで目を向け、適正な価格で評価させていただきます。ご自宅に眠っているお品物がございましたら、ぜひ一度ご相談ください。誠心誠意、丁寧にご対応させていただきます。
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