
沢田宗沢による「出世鯉蒔絵大盃」をお譲りいただきました。赤漆を基調とした大盃の内面には、荒波を力強く遡る鯉が金蒔絵で描かれています。中国の登竜門伝説に由来する「出世鯉」は立身出世の象徴として広く親しまれ、吉祥意匠として蒔絵工芸でも重用されてきました。本作では鯉の鱗一枚一枚が丁寧に施され、波の流れは尾形光琳風を思わせる流麗な表現で、宗沢独自の重厚さと清楚さが巧みに調和しています。裏面には松と梅が蒔絵で描かれ、長寿・繁栄を象徴する吉祥図が全体を引き締めています。
作者の沢田宗沢(1830–1915)は加賀蒔絵を代表する名工で、梅田三五郎に師事し椎原派の伝統を受け継ぎました。明治期には国内外の博覧会に出品・受賞を重ね、日本漆芸を広く紹介した存在として知られています。鳥や魚を写実的に表す一方、光琳風の水流表現を取り入れ、加賀蒔絵に独自の気品と動感を加えた作風で高く評価されました。本作もその特徴が色濃く表れており、伝統と革新を併せ持つ宗沢の美意識をよく伝えています。
また、直径三十センチを超える大盃という規模も見逃せない魅力です。大型作品は高度な技術と長い製作時間を要し、現存数も限られているため、工芸資料としての稀少価値が高いものとなります。保存状態も極めて良好で、艶やかな漆面と蒔絵の発色は当時のままに保たれており、沢田宗沢の代表的意匠を伝える重要作として高く評価いたしました。
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