
螺鈿(らでん) 香盆
この度、買取させていただいたのは、見事な龍の意匠が施され、周囲に螺鈿細工が施された香盆です。黒漆に鮮やかな朱で描かれた龍が空を舞う様子は、躍動感に満ちています。そして、繊細な螺鈿の文様が神秘的な輝きを放ちます。
螺鈿とは、アワビや夜光貝などの真珠層を薄く剥がし、文様に合わせて切り、漆器や木地の表面にはめ込む技法です。貝の持つ虹色の光沢を活かすことで、独特の華やかさと奥行きを生み出します。
香盆は、香炉や香合などを載せるための盆で、主に香を楽しむ際に用いられました。香を楽しむ習慣は、平安時代の貴族社会で盛んになり、香道という芸道にまで発展しました。また、香りは邪気を払い、心を清めるものと考えられていたため、仏事や儀式にも欠かせないものでした。また、香盆は香を楽しむための道具であると同時に、持ち主の美意識や格式を示す品でもありました。
この香盆に見られる龍の意匠は、東洋において古くから力、権威、そして幸福の象徴とされてきました。天候を司り、雨を降らせる神聖な存在として崇められ、皇帝の象徴にも用いられた意匠です。龍の周りに描かれた雲文様は、龍が天を駆け巡る様子を表現しており、吉祥の意が込められています。また、螺鈿の細やかな幾何学文様は、香盆に立体感とリズムをもたらし、作品全体の完成度を高めています。
漆芸品の査定では、いくつかのポイントがあります。まず、最も重視するのは作品の状態です。漆や螺鈿の剥がれやひび割れ、カケ、修理の痕跡がないかなどを確認します。次に、作家や工房、そして時代背景を考慮します。箱や付属品の有無も査定に影響します。そして、意匠やデザインの芸術性を総合的に評価します。
今回、買取させていただいた螺鈿香盆は、その美しい意匠と良好な保存状態から、持ち主の方が大切にされてきたことが伝わってくる逸品でした。こうした素晴らしい作品を次の世代へと繋ぐお手伝いができることに、いつも喜びを感じています。ご自宅に眠っている古美術品がありましたら、ぜひ古美術永澤へお気軽にご相談ください。
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