
こちらは近代日本を代表する木彫家・平櫛田中(ひらくしでんしゅう)による灰袋子(かいたいし)の木彫り象です。片肌を脱ぎ、赤地に緑裏の衣をまとった痩身の老人像で、口の中を示すような仕草が主題です。穏やかな笑みと誇張された腹部の膨らみ、衣文のうねり、丁寧な彩色が、田中の写実とユーモアを併せ持つ近代木彫の魅力を端的に示す一点です。
主題の「灰袋子」は、中国の仙人譚に基づくもので、病に伏す仙人が「腹に不浄が溜まるから病む」と言い、口から自分の空の腹の中を見せてみた、とされます。
本作では、主題は仙人でありながらも、口の中へ視線を導くポーズと温かな面貌が見る者に親しみを与えます。田中は仏教彫刻の伝統に近代的写実を融合し、人物の内面や気韻をとらえる点で高く評価されてきました。本作のような寓意性を持つ仙人像は、田中の作家性と人生観が現れた作品と言えるでしょう。
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