
歌川国芳による大判錦絵三枚続「源牛若丸僧正坊随武術覚図」です。国芳は江戸後期を代表する浮世絵師で、武者絵の名手として知られます。1797年に江戸で生まれ、歌川豊国に学んだ後、豪放かつ斬新な武者絵や歴史画で人気を博しました。特に1820年代後半から手掛けた『通俗水滸伝豪傑百八人之一個』シリーズによって一躍名声を確立し、その後も源平合戦や太平記を題材とした勇壮な群像画を数多く発表しました。弟子には月岡芳年や河鍋暁斎があり、幕末から明治の美術界へ大きな影響を与えました。
本作は源義経(幼名:牛若丸)が鞍馬山で天狗の大僧正・僧正坊から武術を学ぶ伝説を描いたものです。画面中央には赤衣を纏った大天狗僧正坊が悠然と座り、その周囲で小天狗たちが武術や兵法の稽古をする様子が生き生きと表されています。右手には火を焚き、剣術や飛翔の場面を交え、幻想的かつ迫力ある場面構成が展開されています。左手には若き牛若丸が描かれ、後の源義経としての武勇の萌芽を暗示しています。
国芳の筆致は、杉木立の重厚な背景と滝の流れ、燃え盛る炎の対比を巧みに使い、現実と伝説の境界を曖昧にしながら観る者を物語世界へ引き込みます。力強い武者の姿に加え、天狗の軽妙さが作品全体に躍動感を与えており、国芳の武者絵の魅力が凝縮された作品といえるでしょう。
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