懐玉斎正次とは?|超絶技巧の作風と作品の価値を解説

根付買取 2026.08.11

懐玉斎正次《十二支》

Kaigyokusai Masatsugu, Zodiac Animals, mid- to late 19th century, Los Angeles County Museum of Art, Raymond and Frances Bushell Collection, photo © Museum Associates / LACMA

懐玉斎正次の概要

幕末から明治期にかけて活躍した天才根付師・懐玉斎正次

しかし、その経歴や私生活、生涯に関する史料が極めて少なく、現代において多く語られていません。
それは懐玉斎が生きた時代、根付師の社会的地位、そして流通経路に関わる複数の要因があります。

根付研究の遅れ

江戸時代から明治初期にかけて、根付師は「アーティスト(芸術家)」ではなく、あくまで実用的な「日用品(帯留め、提げ物の留め具)を作る一介の職人(工)」として扱われていました。 また、懐玉斎正次は「独学」の職人であり、公的な流派に属しませんでした。

日本の美術史において、根付は長らく「卑俗な実用品(おもちゃ・装飾品)」とみなされ、格の高い「工芸(蒔絵、陶芸、刀剣、絵画など)」に比べて学術的な研究や記録の収集が明治・大正期に著しく遅れました。

また、根付の実用的な需要が激減した時期にあたります。
幕末の頃から筒指し(木や象牙、漆塗りなどの煙管筒を腰に差す形式の煙草入れ)の流行により根付が不要となったこと、黒船来航や王政復古といった国内の動乱、そして明治維新を機に洋装化が進み、根付の必要性が失われていきます。

国内需要が激減し、懐玉斎正次の卓越した作品(全体の7~8割とも)は美術品として海外へ直接輸出されました。

作品とともに評価も海外へ渡ってしまったため、日本国内において懐玉斎の足跡や活動記録が収集・編纂されにくい環境にあります。

職人気質

懐玉斎は非常に厳格な完全主義者であり、気に入らない自作を惜しげもなく破壊するなどのエピソードが弟子や孫の安永家を通じて部分的に伝わっているのみです。
公的な社交や記録に残るような活動を嫌い、日夜酒を嗜みながら工房にこもって極限の美を追求した「孤高の職人」としての性格そのものが、私生活の記録の少なさにつながっているのではないかとする見方もあります。

懐玉斎正次の作風

徹底した実物写生

懐玉斎は実物を観察・描線(写生)することで技術を修めました。
その解剖学的正確さは、動物や人物の骨格、重量配分、筋肉の収縮や動作に伴う皮ふの変化まで計算し尽くされた自然な姿勢を表現しています。

動物の毛皮は毛並みの一本一本を一定の深さ・間隔で削り出して表現し、髭などを周囲の表面より高く残して彫り出す「高彫・浮彫」などを用いています。

極限の精密表現

さらに根付の正面・側面だけでなく、普段は見えない裏面(底面)に至るまで妥協なく細密な彫刻を施しています。
また、蛤や牡蠣の貝殻、竹の子などの造形の内部に「龍宮」や「天橋立の風景」「寺院建築」「群がる鳥」などの微細な情景を破綻なく彫り込む容彫を得意としました。

懐玉斎の根付は、細部に至るまで、その高度な運刀技術を示しています。

「紐通し」の工夫――専用の穴をあけない意匠

懐玉斎は、根付として帯に繋ぐ紐を通す際、原則として「紐通し用の穴」をあけませんでした。動物の足の間や手足の隙間など、造形として自然に生まれる空間(透かし)に紐を通す構造を考案し、彫刻の完全性を損なわないデザインに昇華させています。

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懐玉斎正次の何がすごいのか?

狂気的なまでの「素材選定」

彼は欠陥のない極上の素材のみを追求する完全主義者でした。
黒檀は全体が均一に黒いもの、琥珀は単一の色合いを呈するものなど、あらゆる素材において一切の妥協を許しませんでした。

唐方

その中でも、特筆すべきは象牙でしょう。
かつて日本で最高品質の輸入象牙である「唐方とうかた」を、懐玉斎は好んで用いました。

唐方は、中間的な硬さを持ち、黄色みがかったアイボリー色が特徴で、この美しい色合いは他とは比べようがないほで、とても高価なものです。
アフリカ産やインド産ではなく、タイやカンボジアにわずかに生息する成長期の東南アジア産象牙(それも太い牙の中間部分の一・二の小切片のみ)を厳選しました。軟らかすぎる若象や、色が鈍くもろい老象・雄象の牙は徹底して排除しています。

目の嵌入(象嵌)

前述の実物写生、精密表現にも通じるものですが、懐玉斎は動物の目には着色ではなく、海松(黒珊瑚)、黄貝(黄真珠)、鼈甲(べっこう)、さらには極めて稀少な犀鳥さいちょうくちばしなどを単体または多層に組み合わせて嵌め込み、生体特有の潤いと冷光を表現しました。

その造形、素材共に完璧を追求し徹底した懐玉斎の根付は、古美術商やコレクター間で他の根付師の追随を許さないと評されています。

懐玉斎正次《蝦蟇仙人》

Kaigyokusai Masatsugu, Gama, the Immortal with Toad, mid- to late 19th century, Los Angeles County Museum of Art, Raymond and Frances Bushell Collection, photo © Museum Associates / LACMA

懐玉斎正次作品の価値

木彫や標準的な象牙作品

数百万〜数千万円で取引される例が多く見られます。

「唐方」象牙を使用した超細密作品、特撰状態の逸品

数千万円〜1億円超で落札されるケースがあり、根付作品としては世界最高額クラスの市場価値を誇ります。

根付研究の第一人者であるレイモンド・ブッシェル氏をはじめとする海外の大コレクターに多く所蔵され、現在はロサンゼルス郡美術館(LACMA)や大英博物館などの公的機関に収蔵されているため、市場に流通する真作の数は極めて限られています。

掲載価格は過去のオークション実績などを参考にした市場相場の一例です。
実際の査定額・買取価格を保証するものではありません。

ワシントン条約(CITES)等の法的規制による影響

懐玉斎作品の多くは象牙製品であるため、国際取引においては国際ワシントン条約や各国の象牙取引規制(登録証の有無等)の影響を受けます。適切な証明書類が整っている真作は、希少性がさらに高まり資産価値として強固に保持される傾向にあります。

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懐玉斎正次の作品に代表される江戸〜明治期の優れた根付は、世界的な美術品オークションでも数千万円から1億円超で取引されるなど、今なお高い資産価値を誇ります。

「作者がわからない古い根付がある」「譲り受けた象牙・木彫作品の価値を知りたい」といった場合でも、諦めずにまずはご相談ください。
当店では、最新の国際市場相場と作品の保存状態・技法・由来を総合的に鑑み、価値に見合った最高水準の買取価格をご提示いたします。出張査定や写真による【LINE査定】も無料で承っております。

懐玉斎正次作品を展示している美術館・施設紹介

博物館・美術館(国内)

東京国立博物館

https://www.tnm.jp/

故・高円宮憲仁親王殿下が妃殿下(久子様)とともに約18年にわたって収集された、現代根付を中心とする、高円宮コレクションをはじめとする根付コレクションや明治工芸の収蔵品の中に、正次を含む江戸〜明治期の名工の作品が所蔵されています(展示替えに応じて平成館の日本ギャラリー等で公開されます)。

清水三年坂美術館

https://sannenzaka-museum.co.jp/

安永正次の銘で《應龍図香合》が常設展示されています。

博物館・美術館(海外)

大英博物館(The British Museum)

https://www.britishmuseum.org/

19世紀末の英国内での東洋美術ブームから、20世紀中盤〜後半の個人コレクターへの受け継がれたものが収蔵されています。

公式コレクションデータベースにて閲覧可能。
https://www.britishmuseum.org/collection/term/BIOG2454

ロサンゼルス郡美術館(LACMA)

https://www.lacma.org/

レイモンド&フランシス・ブッシェル夫妻による世界最高峰の根付コレクションが貸与・展示されています。

公式コレクションデータベースにて閲覧可能。
https://collections.lacma.org/search?artist=Kaigyokusai%20Masatsugu

参考文献

  1. レイモンド・ブッシェル(
  2. 上田令吉(
  3. 砂本清一郎(

 

担当

コラム編集室 AYA

サイトコラム編集者

西洋美術が好きだけど、最近東洋美術も面白く感じてきた。学芸員資格を持っている。作家コラムを中心に更新中。