
小杉放庵 掛け軸
この度、お客様より、小杉放庵の掛け軸をお譲りいただきました。瑞々しい筆致と温かみのある素晴らしい作品です。
小杉放庵(1881-1964)は、明治から昭和にかけて活躍した洋画家でありながら、日本画、さらには詩や随筆も手がけた多才な芸術家です。
当初は洋画家として確固たる地位を築きました。しかし、彼の芸術活動は洋画の枠に留まることなく、後に日本画の分野にもその才能を発揮します。その作風は、写実的な描写力と、対象の内面を捉える深い洞察力に特徴があり、特に素朴で愛らしい動物や植物の描写には、彼の温かい人柄が滲み出ています。
今回お譲りいただいた作品は、まさに小杉放庵のそうした画風を象徴する作品と言えるでしょう。淡い墨で描かれた梅の老木は、春の息吹を感じさせる力強い生命力に満ちています。そして、そこにちょこんととまる鳥、鷽(うそ)の姿。ふっくらとした愛らしい体つき、赤みを帯びた頬、そしてつぶらな瞳。細やかな筆遣いで描かれた羽毛の一本一本に、生き生きとした鷽の様子が表現されています。西洋画の技術に裏打ちされた緻密な観察眼と、日本の伝統的な水墨画の技法が見事に融合し、見る者の心を和ませる温かい世界観が広がっています。
この作品が描かれた背景には、小杉放庵が自身の芸術を深めていった歴史があります。彼はフランス帰国後、制作活動を続ける中で、東洋的な精神性や自然観をより深く追求するようになります。この時期に制作された作品には、簡潔な線の中に豊かな情緒を込める、彼の独自の画風が確立されていきました。鷽は「天神様の使い」として信仰される縁起の良い鳥であり、梅は厳しい冬を耐え忍び春を告げる花として古来より尊ばれてきました。この二つのモチーフを組み合わせたこの作品は、画家自身の人生観や、平和な世を願う思いが込められているようにも感じられます。
古美術永澤では、このような掛け軸や絵画の査定において、単に作品の状態や技法を拝見するだけでなく、その作品が持つ歴史や文化的背景、さらには作家の生涯における位置づけなど、多角的な視点から総合的に判断しています。
小杉放庵の温かい眼差しが込められたこの掛け軸を、次世代へと大切に橋渡しできるよう、弊社で責任を持って取り扱わせていただきます。この度はご縁をいただき、誠にありがとうございました。
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