
19世紀にヨーロッパで流行した卓上装飾具「エパーン(Epergne)」です。エパーンはフランス語に由来し、もともとは「卓上飾り」を意味しました。18世紀の宮廷や貴族社会においては銀製の豪華なセンターピースが主流でしたが、19世紀ヴィクトリア朝期になると、ガラスを用いた軽やかな様式が英国を中心に広く普及しました。
特徴的なのは、中央に高く伸びるトランペット状の花器と、それを囲む複数の小型の花器による構成です。これは単なる意匠ではなく、19世紀の食卓文化と密接に結びついています。当時の饗宴では、花や果実を高さを出して飾ることで、テーブルを立体的に演出することが求められました。中央の花器には豪華な花を、周囲の器には果物や甘味を配することで、宴席全体を華やかに彩る役割を担っていたのです。
特にクランベリーガラスと呼ばれる赤みを帯びた発色は、金を微量に含む特殊な技法によって生み出され、19世紀の英国やボヘミアで高い人気を博しました。その鮮やかな色彩は光の下でひときわ映え、祝祭の場にふさわしい華麗さを添えています。
今回お譲りいただいたエパーンも、そうした歴史的背景を体現する一品です。単なる装飾ガラスではなく、ヴィクトリア朝の食卓文化や社交儀礼を象徴する工芸品としての価値を備えており、美術的にも文化史的にも高く評価されるものです。
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