
本作は近代日本画の巨匠、奥村土牛(おくむらどぎゅう)による「桔梗」を主題とした作品です。澄んだ群青で描かれた花弁が淡い地色の中に浮かび上がり、秋草の静謐な美を簡潔かつ格調高く表現しています。
奥村土牛は、人物や動物、風景を幅広く描きながらも、日常の中に見出した自然の一瞬を清澄な眼差しで捉えることを得意としました。その姿勢は本作にもよく表れており、華美な装飾を排し、花の持つ端正さや素直な生命感をそのまま画面に定着させています。桔梗は日本画において秋草を代表する伝統的な題材であり、土牛にとっては、自然の静けさや精神性を象徴的に描き出す格好のモチーフでした。
背景には余白を活かした柔らかな暈しが施され、空間の広がりとともに花の清らかさを引き立てています。花弁の濃淡、茎や葉の軽やかな筆致には、写生を重んじながらも対象を精神的に昇華させる土牛の画風が色濃く反映されています。
奥村土牛の「桔梗」は、大作の風景画とは異なり、作家が自然の一片に寄り添い、その静かな魅力を親密に表現した小品であり、コレクターにとっても土牛のもう一つの側面を味わえる作品といえます。
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