
藤田嗣治による版画「アビハイル」です。本作は1930年に刊行された挿画本『猫の本』の一枚であり、藤田が猫を題材に多数の挿画を収めた稀少な作品群の一部です。
『猫の本』は藤田がフランスで発表した豪華本で、約20点以上の挿画によって構成されています。いずれの図版も細密な線描を基調とし、猫という生き物の多様な姿や性格を写し取ったものです。藤田は数多くの猫を飼い、日常の中で観察した仕草や表情を丹念に記録しており、この挿画集にはその実体験に基づいた親密さが反映されています。
また、この猫に「アビハイル」と名付けたのは藤田ではなく、イギリスの詩人であるマイケル・ジョセフです。「猫の本」では彼がそれぞれの猫に名前をつけ、散文詩を添えています。
今回の「アビハイル」は、鋭い目つきと警戒した体勢の猫が描かれています。毛並みは緻密な線で丁寧に表現され、尾を大きく膨らませた姿からは、猫特有の敏捷さや感情の起伏が伝わってきます。
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