
板谷波山による「桃香合」です。小ぶりながらも、波山の卓越した造形感覚と釉薬表現が凝縮された作品です。柔らかな桃色と青みを帯びた釉薬が自然に溶け合い、熟した果実のような愛らしさと気品を兼ね備えています。
波山は近代陶芸の巨匠として知られ、とりわけ辰砂や葆光彩(ほうこうさい)磁など格調高い作品群で名を高めましたが、桃や桃花のモチーフは彼にとってなじみ深い題材でもありました。吉祥や長寿の象徴とされる桃は、しばしば波山作品に意匠として現れています。
しかし、本作のように果実そのものをかたちにした香合は比較的珍しく、端正な花瓶や壺とはまた異なる、親しみやすく可憐な魅力を漂わせています。茶席で用いられる小品でありながら、釉薬の色彩と造形の妙が見事に調和し、波山の幅広い創作性を示す一作といえるでしょう。
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