
このたび、葛飾北斎による《冨嶽三十六景 相州梅澤左》をお譲りいただきました。富士山を背景に、水辺で餌をついばむ鶴の群れが描かれた一図で、穏やかで伸びやかな風景が心に残る作品です。
この「梅沢」は、現在の神奈川県平塚市付近(旧・相模国)にあたる地域で、かつては相模湾に面した湿地と田園が広がっていました。北斎はこの地を訪れ、富士を望む自然の美しさを細やかに描き出しています。ゆったりとした鶴の姿と、遠くにそびえる富士山の対比が、自然の豊かさと生命の息づかいを感じさせます。淡い空の色合いや雲の流れにも、北斎晩年の色彩感覚の冴えが見てとれます。
葛飾北斎(1760–1849)は、江戸後期を代表する浮世絵師であり、生涯を通じて多くの画風を試みた探究心旺盛な芸術家でした。「冨嶽三十六景」は天保初年(1830年代前半)に刊行された代表作で、青を基調とするベロ藍(※当時の顔料としては非常に鮮やかで、退色しにくい強い青色顔料、北斎や歌川広重も愛用した)の鮮やかな色使いが特徴です。西洋の遠近法を取り入れつつ、東洋的な感性を失わない構図は、日本美術の新しい時代を切り開きました。
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