「浮世絵1」江戸庶民が愛したアート×メディアの基本と代表作5選

浮世絵富嶽三十六景東海道五十三次歌川広重浮世絵葛飾北斎 2024.01.18

掛軸に描かれている着物の人物画…?なんとなく江戸っぽい日本画…?
浮世絵は日本の近世・江戸時代を象徴する文化のひとつです。とはいえ、どういったものかはよく知らないという方も多いと思います。
そんな浮世絵の基本をおさらいし、その魅力を再発見していきましょう。

浮世絵ってどんなもの?意外と知らない浮世絵の基本

「浮世絵」とは江戸時代に成立した日本絵画の1ジャンルです。くっきりした輪郭線と鮮やかな色使いで、当時の風俗や流行を描き出しました。
それまでの絵画といえば、公家や大名に庇護された絵師がスポンサーのために描くもので、お金のない庶民にはあまり関係がありませんでした。

将軍家光の時代、政情の安定と経済発展により庶民の生活が次第に豊かになり、娯楽を楽しむ余裕が生まれました。江戸の人々は芝居を楽しみ、旅行に出かけ、ゴシップに興じるようになります。
当時、映像はもちろん写真もまだありません。美しい風景を撮影してシェアすることはできませんし、推し役者の画像をスクショして眺めることもできませんでした。自分が見た素晴らしいものを情報として所有したい・共有したいという欲求に応えたのが浮世絵でした。
浮世絵師たちは庶民の暮らしぶりや娯楽について描き、庶民はそれを入手して鑑賞し、楽しみました。
浮世絵は豊かになった庶民たちの欲求に応える形で発展した娯楽だったのです。

浮世絵には実に様々なものが描かれました。人気の役者や遊女、各地の観光スポット、町で話題の看板娘、政治に対する風刺、歴史や合戦の物語、怖くてユニークな妖怪や幽霊など…。テレビもスマホもない時代、それらは娯楽であると同時に貴重なビジュアル情報メディアでもありました。

そんな浮世絵には手書き一点物の「肉筆画」と、大量に印刷された「木版画」があります。肉筆画は貴重で高価でしたが、木版画は一枚数百円から1,000円程度で手軽に購入することができました。
私たちがポスターやポストカードを部屋に飾るように、江戸の人々も浮世絵を飾って楽しんでいたのでしょう。

有名どころをチェック!知っておきたい5人の絵師と代表作

菱川師宣「見返り美人図」

浮世絵 菱川師宣 見返り美人図浮世絵の基礎を作った菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の代表作です。
師宣の描く美人画は、当時から「これぞ、江戸美人だ!」と言われるほど評判が高く、広い層から支持されました。
描かれた女性のヘアメイクやファッションを見てみましょう。
髪型は当時流行した「吹前髪」と「玉結び」。今でいえば「前髪はポンパドールにして、後ろは手の込んだ編み込みヘア」といったところ。
着物の朱色と花模様も鮮やかで、綸子の生地にうっすら浮かび上がる地紋がとても贅沢な印象です。帯の結び方は人気役者の結び方にならった「吉弥結び」。
トレンドに敏感でオシャレな江戸の女性の姿を、後ろを振り返るという斬新なポーズを取り入れることによって、余すところなく描き出しています。
江戸時代前期に制作された一点物の肉筆画で、日本のみならず世界的にも非常に有名です。

東洲斎写楽「三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛」

浮世絵 東洲斎写楽 三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)の代表作のひとつで、もっともよく知られた浮世絵でもあります。
写楽は寛政6~7(1794~1795)年の10か月間で145点あまりの浮世絵を発表します。しかしその後はパタリと姿を消し、詳細なプロフィールも伝わっていません。まさに謎の浮世絵師なのです。
この作品のように、画面いっぱいに人物のバストアップが描かれている浮世絵を「大首絵(おおくびえ)」といいます。人気役者のブロマイドのようなもので、大変人気がありました。
写楽は大首絵でデビューを飾った絵師でしたが、作品への評価は賛否両論でした。その理由は、モデルの特徴を捉え強調しすぎたこと。目鼻の形、シワ、輪郭などをリアルに描きすぎて、描かれた役者とファンから反感を買ったわけです。
写楽のデビュー作でもあるこちらの作品は「恋女房染分手綱」という芝居の一幕。悪人である奴江戸兵衛が、奴一平を襲って金を奪おうとしているシーンです。鋭い目つきとへの字に結んだ口元に緊張感があふれ、前屈みになった姿勢と懐から突き出した両手で、今にも飛びかかろうとしていることが分かります。
盗人たちから身を守ろうとする奴一平の絵が対になっています。

葛飾北斎「富嶽三十六景 凱風快晴」

浮世絵 葛飾北斎 凱風快晴

浮世絵を知らなくとも葛飾北斎(かつしかほくさい)という名は聞き覚えがあるという方もいるでしょう。
「富嶽三十六景」は北斎晩年の作品。富嶽とは富士山のことで、その名の通り、富士山をテーマにした大判の揃物(そろいもの・シリーズもののこと)です。もとは36図揃のはずでしたが、売れ行きがよかったため「裏富士」と呼ばれる10点が追加され、最終的には全46枚図となりました。
この大ヒットにより、それまで美人画や役者絵が主流だった浮世絵界に「名所絵」というジャンルが確立しました。
「凱風快晴」は、雪解けした富士の山肌に夏の朝日があたって、真っ赤に染まっているシーンだといわれています。

歌川広重「東海道五十三次 掛川秋葉山遠望」

浮世絵 歌川広重 東海道五十三次

名所絵を得意とした歌川広重(うたがわひろしげ)の代表作。
江戸と京都を結ぶ東海道53宿場を中心に、道中の景観や習俗を描いた全55図の揃物です。
凧が枠を突き抜けて上がっている様子は並外れた高さを表現しており、現在の漫画表現にも通じるものがあります。橋の上の青い着物の二人組は夫婦で、向こうからやって来る僧侶に頭を下げています。その後ろにいる子どもは、凧を見つけてはしゃいでいるよう。川を渡る風の涼やかさが感じられそうな、清々しい一枚です。
江戸時代、政情の安定や貨幣の流通により庶民の暮らしは平穏かつ豊かなものになりました。また参勤交代のために街道や宿泊施設が整備されたこともあって、旅がひとつのブームでありました。そんな旅への気持ちを盛り立てたのが、広重の「東海道五十三次」を含む名所絵だったのです。

> 歌川広重の買取について

喜多川歌麿「婦女人相十品 ビードロを吹く女」

浮世絵 喜多川歌麿 ビードロを吹く女喜多川歌麿(きたがわうたまろ)は江戸時代後期の浮世絵師で、美人大首絵を得意としていました。「婦女人相十品」も、そんな歌麿の美人画揃物のひとつです。
市松模様に小花の散った振袖を身に着け、ビードロ(ポルトガル由来のガラス玩具)を吹く女性の図は、愛らしく茶目っ気たっぷり。粋でコケティッシュな佇まいは、男性だけでなく、流行りに敏感な女性たちのオシャレ心も、大いにそそったことでしょう。
美のトレンドは江戸時代にも存在していました。当時は色白、細面、切れ長の目、小さな口などが、美人の条件とされていたようです。「都風俗化粧伝」という江戸時代の美容指南書にも、鼻を高く見せる、大きな目をキリッと細く見せる、などのメイクテクが掲載されていました。トレンドそのものは今とかなり違いがありますが、美を追求する姿勢は今も昔も変わらないようです。

最も高価な浮世絵と、そのお値段は?

浮世絵 葛飾北斎 神奈川沖浪裏

2023年3月、ニューヨークで開催されたオークションで、葛飾北斎の代表作のひとつ「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が落札されました。その額、なんと276万ドル、日本円にして約3億6200万円!オークションを主催したクリスティーズが当初予想した50~70万ドルという落札価格を大きく上回る結果となりました。
木版画とは思えない高額評価が出た背景には、版木の摩耗が少ない初期の頃の作品であることと、摺りの技術の素晴らしかったことがあったようです。
今もなお世界中から熱い視線を向けられる北斎の作品は、「浮世絵」の奥深い魅力を象徴しています。

終わりに

浮世絵は江戸時代の自由さとオリジナリティあふれるアートです。今も日本内外で根強い人気を持ち、有名作家の初期摺りであれば高額で取引されることもあります。
保存状態によっては復刻品・後期摺りであっても査定価格は変動しますので、浮世絵の買取をご検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。

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担当

小川芳朋

編集部

西洋陶磁器が専門。 美しい物と怖い物について書いています。 アンティーク食器のほか、蚤の市、廃墟、妖怪に詳しい。