
荻須高徳のリトグラフ作品「キャフェータバ」(1984年制作)です。フランスの街角に佇む赤い外壁のカフェを描いた一枚で、彼が生涯を通じて描き続けた「パリの下町風景」の魅力が凝縮されています。
荻須高徳(1901-1986)は愛知県に生まれ、フランスに渡ってからは終生パリに暮らしながら制作を続けた画家です。モンマルトルや下町の街並みを題材に、庶民的で温かみのある景色を重ね描きました。その筆致は、派手さや華やかさではなく、日常に宿る静かな美しさを引き出すものです。
「キャフェータバ」と題されたこの作品に登場するカフェは、フランス人の日常に欠かせない憩いの場を象徴しています。カフェは、珈琲を飲むだけでなく、タバコや新聞を買い、近隣の人々が集う小さな社交場でもありました。荻須は、こうした街の片隅にこそ生活の温度や人々の息づかいが感じられると考え、度々モチーフに取り上げています。
1984年という制作年は、荻須の晩年にあたり、画業の集大成としてリトグラフに力を注いでいた時期です。本作にも、彼が長年親しんだパリの空気や、異国で生き続けた画家としてのまなざしが宿っています。リトグラフながら油彩画に近い質感をもち、鮮やかな赤と青の対比が画面に豊かなリズムを与えています。
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