見るだけでハッピー!”耄耋(もうてつ)”って知ってる?中国発の幸運を呼ぶ吉祥絵ワールド~猫編

中国美術買取掛け軸買取 2026.07.07

突然ですが、猫ってとってもかわいいですよね。
我が家の猫ちゃんの可愛い瞬間を撮影していたら、いつの間にかスマホのアルバムアプリの中身が、愛猫の画像や動画だらけになっていた…なんて人も多いのではないでしょうか?

骨董業界で長年お買取りさせていただいている当社でも、猫モチーフの作品をお客様から
お譲りいただく機会はたくさんあります。

今年、美術界隈を大いに賑わせている「ゴールドマン コレクション 河鍋暁斎の世界展」でも、日本初出展となる「猫又図」が人々の心を掴んでいます。河鍋暁斎はもともと猫好きで、おまけに河鍋暁斎の幼少期の師匠であった歌川国芳も大の猫好きとして有名でしたから、猫という生き物は、今も昔も創作心をくすぐる特別な存在だと言えますね。

「ゴールドマン コレクション 河鍋暁斎の世界」
公式HP:https://kyosai2026.exhibit.jp/

サントリー美術館(会期終了)
神戸市立博物館(2026年7月11日-9月23日)
静岡県立美術館(2026年10月10日-12月6日)

そんな猫について、中国美術の世界に「耄耋(もうてつ)」というジャンルがあることをご存知ですか?「耄耋」とは、中国発の縁起のよい猫絵のことで、猫と蝶々が組み合わせて描かれた作品のことを指します。
今回は知られざる「耄耋」ワールドの奥深い世界についてご紹介いたします。

なぜ「耄耋」は縁起が良い?語呂合わせの遊び心

「老」に「毛」と書いて「もう」と読み、「老」に「至」と書いて「てつ」と読む「耄耋」。
漢字も響きも日本人には馴染みがほとんどありませんが、「耄」は中国語でmao(マオ)と発音し、70歳を意味します。一方、「耋」はdie(ディー)と発音し、80歳を指します。
どちらも高齢や長寿に結びつく言葉ですが、実は「猫」の発音は「mao」、蝶々は「die」で、
発音が一緒なのです。
こうした語呂合わせの遊び心から、猫と蝶々を組み合わせた絵は、長寿を願うおめでたい作品として中国絵画の世界で広く描かれるようになり、やがて日本にも伝わって、多くの日本画家も描くようになりました。

こちらが実際の耄耋です。

少々一方的ではありますが、子猫が蝶々と戯れている大変可愛らしい絵ですね。よく見ると、子猫の瞳の色が透明感のある青色で彩色されています。これは“Kitten Blue(キトン ブルー)”と呼ばれる子猫特有の瞳の色で、猫種に関わらず全ての子猫に共通して現れますが、生後2か月頃までしか見られない大変貴重な輝きです。

画家は可愛らしさに加え、その鋭い観察眼をもって、ほんのひと時しか見ることができない現象までしっかり描いていることがわかります。

耄耋の絵はどこを見ると面白い?

耄耋は子猫に限らず、実に様々な猫が描かれています。この耄耋の猫は何歳くらいだろう?と月齢を予想してみたり、柄や被毛の長さをチェックし、実際はどんな猫だったのだろうと想像してみるだけで、猫好きにはたまらなく楽しい時間になると思います。

ちなみに、中国には中国原産の猫というのは近年までいませんでした。では耄耋に描かれている猫はどこからやってきたかというと、唐時代の730年頃までに、シルクロ-ドの交易隊によって持ち込まれたと考えられています。世界各地の遺跡から発掘された猫の骨のDNAを調査した結果、現在私たちが猫と呼んでいる「イエネコ」の起源は、北アフリカに生息しているリビアヤマネコであることが明らかになりました。収穫した穀物を荒らすネズミを捕食してくれる猫は世界中で重宝され、各地で定着し、中国国内でも急速に人間との共存が進んだようです。耄耋の猫たちは、シルクロ-ドの長い旅路を通って、遠い異国からはるばるやってきた猫たちの子孫だと考えると、また絵の見方も変わるかもしれません。

宋徽宗真蹟耄耋圖 卷。國立故宮博物院,台北,CC BY 4.0 @ www.npm.gov.tw

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吉祥絵=見るだけでハッピー!な気持ちになれる縁起モノ

猫と蝶を組み合わせた「耄耋」のように、長寿や富、子孫繁栄などの願いが込められた絵は昔から好まれて描かれてきました。このような縁起の良いモチーフを描いた作品のことを「吉祥絵」と呼びます。もともと、中国では古代より、龍や鳳凰といった神話世界の生き物のほかにも、菊や蔓性の植物、桃、鶏、うさぎ、魚など、身近な動植物が長寿や富、子孫繁栄を意味する吉祥モチーフとして絵画などに描かれてきました。昔は今ほど医療や衛生環境が整っておらず、また食料事情も決して安定していたとはいえませんでした。だからこそ、長寿や健康、家族の繁栄は、人々にとって切実な願いだったのです。平和に幸福に生きられるよう願いを込め、それを作品として表現することは、ごく自然なことだったのかもしれません。

蝶々だけじゃニャイ! 猫は様々な縁起モノと組み合わせて描かれた

猫と蝶々は長寿の願いが込められた組み合わせですが、奥深い吉祥絵の世界では猫は様々な動植物と組み合わせて描かれてきました。

その中でも代表的な組み合わせをいくつかご紹介します。

猫と牡丹

中国では古くから、牡丹はその華やかさとともに、富や名誉をもたらす縁起物として、多くの絵画や陶磁器類などに描かれてきました。猫と牡丹は、長寿×富貴をもたらす縁起ものとして、昔から好まれて一緒に描かれてきた組み合わせです。

ただし、実は猫にとって牡丹は危険な花なのです。万が一誤食してしまうと、牡丹に含まれるペオノールという成分が中毒症状を引き起こし、嘔吐や下痢などを招くおそれがあります。
お家で猫を飼われている方は、牡丹を花瓶に飾らないようにするか、猫が入れない部屋にだけ飾るなど、誤食しないように注意を払ってください。

猫と蔓(つる)性植物

中国から伝来した唐草文様は、蔓草の伸び絡む様からモチーフ化されたものであり、日本でも古来から広く親しまれてきた柄です。中国では、ひょうたんやヘチマ、葡萄といった蔓性の植物は、その長く続く様子から、「途絶えず子孫に受け継がれる=子孫繁栄」を意味する縁起の良い植物として親しまれ、画題として非常に好まれてきました。こうしたことから、猫と蔓性の植物も、長寿と子孫繁栄を願う吉祥絵として、よく一緒に描かれてきました。

ちなみにヘチマは、現代の中国においても体の火照りを鎮める健康に良い食材として、広く親しまれています。ただ、春節の時期になると、帰省のたびにうんざりするほどの大量のヘチマスープをおばあちゃんやお母さんが作って待っていることから、それが悩みのタネになっている子ども世代も多いのだとか。

耄耋をはじめとする吉祥絵の文化は日本の絵画にも大きな影響を与えた

長寿や繁栄を意味する吉祥文様については、正倉院の宝物にも数多く見受けられます。日本史の授業で覚えた方も多いと思いますが、飛鳥時代(592年-710年)には遣隋使(600年-618年頃)や遣唐使(630年-665年頃)によって、律令制度や仏教とともに中国の文化や美術が日本へもたらされました。絵画に用いる道具や技法もそのひとつで、それらは高松塚古墳壁画をはじめ、日本の美術文化の発展に大きな影響を与え、後の平安時代に成立した「やまと絵」の礎のひとつにもなりました。

一方、吉祥絵については、宋代(960年-1279年)の花鳥画に源流があると考えられています。こうした花鳥画や動物画は、鎌倉時代以降、禅宗の広まりとともに日本へもたらされました。宋・元代の作品は「唐絵(からえ)」として武家や禅寺で珍重され、室町時代には狩野派をはじめとする画家たちにも大きな影響を与えました。

ボストン美術館所蔵の「松に麝香猫(ジャコウネコ)図屏風」(伝 狩野雅楽助(かのう うたのすけ/1501~1504年-1539~1541年)はその例のひとつで、不老長寿を意味する松の下で、麝香猫が優美に佇んでいる姿は、見る者を自然と幸せな気持ちにさせてくれます。

ちなみにジャコウネコは日本原産ではありませんが、1261年に、藤原定家がジャコウネコを見て、「猫に似てる」と言った記録が残されています。当時、珍しい生き物は外交や政治の場で貢物としてたびたび利用されていました。おそらく、ジャコウネコもその一例として日本に持ち込まれたと考えられます。なお、ジャコウネコは名前にネコとついていますが、ジャコウネコ科に属しているため、ネコ科の生き物ではありません。猫というよりは、同じジャコウネコ科のハクビシンのほうが仲間として近いようです。

珍しい生き物であることから、中国でも日本でもたびたび画題となって描かれていますが、実物を見た画家は少なかったのか、その多くがとても「猫っぽく」描かれています。
先ほどの「松に麝香猫図屏風」も、長毛の三毛猫にしか見えません。しかし仮に正確性が欠けていたとしても、異国からやってきた珍しい生き物は、時の権力者から好まれるテーマだったことは間違いなく、また、画家にとっても創作意欲を刺激する存在だったのかもしれません。

余談ですが、猫と牡丹の項でご紹介した作品は、狩野芳崖(かのう ほうがい/1828年-
1888年)が描いたものと思われます。この作品は先ほどの「松に麝香猫図屏風」とそっくりであることから、同じ狩野派の作品を芳崖がお手本にしたのだと思われます。こちらの麝香猫は雅楽助のそれと比較して、さらにサラサラの長毛ヘア風に描かれております。細く繊細な線で表現された被毛は、まるでブラッシングしたてのようで気品さえ感じます。

江戸時代の庶民文化でますます花開くモフモフ猫絵ワールド

猫の存在や、猫が画題の絵が上流階級の人々のものだった時代を経て、江戸時代に入ると次第に一般庶民にも猫が浸透していきました。当初はネズミから穀物を守る用心棒という存在でしたが、やがて愛玩動物としても可愛がられ、浮世絵の題材としても人気モチーフになりました。

冒頭でご紹介した無類の猫好きの歌川国芳のもとにも、浮世絵の版元から猫モチーフの浮世絵制作の依頼がたびたび舞い込み、国芳の猫絵は庶民の間で大変な人気を博しました。そのなかには当然ながら耄耋も描かれており、縁起物が好きな江戸の庶民の心を掴んだのは想像に難くありません。また、猫を擬人化した浮世絵や絵本、双六なども江戸の人々は大いに楽しんだようです。町人文化の発展とともに、猫は縁起物であると同時に、身近で親しみ深い存在として人々の日常へ溶け込んでいったのです。現代でも猫をテーマにしたエッセイや漫画がベストセラーとなることがたびたび起きますが、“猫好き”の気質は実は昔からだったのかもしれません。

流行猫の曲手まり /東京都立図書館

流行猫の曲手まり /東京都立図書館

『朧月猫草紙』(専修大学図書館所蔵)

『朧月猫草紙』(専修大学図書館所蔵)

出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/100291680

また、幼少期に歌川国芳から絵を学び、その後は狩野派でも修業した河鍋暁斎は、日本絵画の伝統を受け継ぎながら、中国画や西洋画まで積極的に学んだ異色の画家でした。
暁斎は、猫はもちろん、鍾馗(しょうき)や龍、蝙蝠(こうもり)、虎など、中国で吉祥や魔除けの意味を持つモチーフを数多く描いています。しかし、それらは単に伝統的な画題として踏襲するだけでなく、時には大胆な構図や、思わず笑ってしまうようなユーモア表現を織り交ぜて、誰にも真似することができない独自の画風で名作・怪作を残しています。
このように、中国で育まれた耄耋や吉祥絵の文化は、日本で多くの画家たちに受け継がれ、時代ごとに新しい魅力をまといながら発展していったのです。

最後に

耄耋は、中国で長寿への願いを込めて生まれた吉祥絵です。蝶をじっと見つめる様子や、夢中で追いかける仕草、モフモフの毛並み。その可愛らしい姿の裏には、長寿や繁栄、幸福への願いが託されています。いつの時代も、国や人種は関係なく、安寧を願う気持ちはみな同じなのでしょう。だからこそ、日本でも耄耋や吉祥絵といった作品は好まれ、今日まで受け継がれてきたのかもしれません。世界が不安定である現代こそ、人も猫ものんびりと過ごせるように、平和を求める穏やかな心を忘れないようにしたいですね。

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古美術永澤では中国美術専門の査定士がおり、お客様が大切にされてきた耄耋や吉祥絵も含めて、豊富な知識で丁寧に査定いたします。実家整理や終活などで、もう飾る機会がなくなってしまった掛け軸や絵画も、当社を通して次のご所有者様へとつなぎ、作品を後世に残すお手伝いをさせていただいております。もちろん日本画の専門知識も有しておりますので、大切なコレクションのご売却をご検討される際には、ぜひ古美術永澤へご相談ください。

 

参考文献:

・「花鳥・山水画を読み解く -中国絵画の意味」宮崎法子 著/筑摩書房

・「史料としての猫絵」藤原重雄 著/山川出版社

担当

コラム編集室 MIYO

サイトコラム編集者

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